繊維業界

繊維業界とは?年収や現状の課題、今後の動向・将来性などを解説

繊維業界とは?

繊維業界とは、綿やポリエステルなどの繊維を扱う業界のことです。生産された繊維は糸や生地となり、縫製されて洋服・スーツなど衣料品の形になります。

また、現在ではこれまでに培った技術を応用して、衣料品だけでなく医療・自動車・建築など多様な分野に活躍の場を広げています。

繊維業界で扱う繊維は、主に天然繊維と化学繊維の2種類です。

  • 天然繊維:自然界に存在する繊維(綿・麻・絹など)
  • 化学繊維:石油や植物性原料を加工して作る繊維(ポリエステル、レーヨン、ナイロンなど)

繊維業界の2022年における市場規模や成長率、利益率は以下の通りです。

業界市場規模

3.6兆円

成長率

-2.7%

利益率

3.1%

出典:業界動向SEARCH.COM「繊維業界

中国などの新興国に押され、国内繊維業界全体の成長率はマイナスです。しかし、自動車向けなど他分野での繊維輸出が増えれば、業界売上高や成長率は好転が見込まれるでしょう。

繊維業界の代表的な企業

繊維業界の代表的な企業と、その売上高をまとめました。

企業名

売上高

三菱ケミカルHD

1兆1,363億円(※1)

東レ

8,362億円(※2)

旭化成

4,607億円(※3)

帝人

2,825億円(※4)

東洋紡

1,143億円(※5)

住江織物

817億円(※6)

日本バイリーン

670億円(※7)

ダイワボウHD

582億円(※8)

芦森工業

535億円(※9)

マツオカコーポレーション

510億円(※10)

※1 出典:株式会社三菱ケミカルホールディングス「2021年度有価証券報告書」(機能商品事業)
※2 出典:東レ株式会社「2021年度有価証券報告書」(繊維事業)
※3 出典:旭化成株式会社「2022年3月期(第131期)本決算 決算説明会資料」(パフォーマンスプロダクツ事業)
※4 出典:帝人株式会社「2021年度有価証券報告書」(繊維・製品事業)
※5 出典:東洋紡株式会社「2021年度有価証券報告書」(生活・環境事業)
※6 出典:住江織物株式会社「2021年度有価証券報告書
※7 出典:日本バイリーン株式会社「会社概要
※8 出典:ダイワボウホールディングス株式会社「2021年度有価証券報告書」(繊維事業)
※9 出典:芦森工業株式会社「2021年度有価証券報告書
※10 出典:株式会社マツオカコーポレーション「2021年度有価証券報告書

1位の三菱ケミカル、2位の東レの売上高は、どちらも3位以下の企業に2倍近くの差をつけています。三菱ケミカルと東レの売上高合計が上位企業の売上高合計の約1/3を占めており、上位2社のシェアは圧倒的なものと言えるでしょう。

また6位以下の企業だけを見ると、総じて売上高1,000億円を割り込んでおり、各社の売り上げはほぼ横並びの状態です。

繊維業界の職種別の仕事内容

繊維業界には、以下のような職種があります。

  • 研究開発
  • 商品開発
  • 営業

それぞれ仕事内容とともに解説していきます。

研究開発

研究開発では、製品に使用される繊維の研究開発・品質チェック・分析などをします。新技術を用い、開発済みの繊維についても品質の向上を目指して改善・改良を行っていきます。

取り扱う繊維の種類は多岐にわたり、また用途も衣料品だけではなく自動車の内装、建築資材など幅広いです。そのため、研究開発として働くためには繊維に関する幅広い知識を備えていなくてはなりません。

商品開発

商品開発とは、顧客・消費者のニーズやトレンドを反映した商品設計を行う仕事です。メーカーやアパレル会社などと連携しながら商品開発をするほか、一般消費者向けの商品開発においては市場調査なども行います。

繊維に関する専門知識に加えて、トレンドを捉える調査スキルやマーケティング能力も求められるでしょう。

商品開発に興味がある方は、「商品開発とは?仕事内容や年収・給料、取得すべき資格などを紹介」も読んでみてください。

営業

営業は自社の製品を企業や一般消費者に売り込む仕事です。また顧客からの要望を研究開発や商品開発と共有し、製品作りに役立てるといった重要な役割も果たします。

営業にはコミュニケーション能力はもちろん、市場動向を押さえたセールスや、自社の扱う繊維についての深い知識も必要です。

営業に興味がある方は、「営業職とは何か説明!種類や仕事内容、向いている人の特徴や年収」も読んでみてください。

繊維業界の年収

繊維業界の年収

繊維業界の平均年収と、全業界の平均年収を比較してみましょう。

業界

平均年収

繊維業界

581万円(※1)

全業界

433.1万円(※2)

※1 出典:業界動向SEARCH.COM「繊維業界
※2 出典:国税庁「民間給与実態統計調査

繊維業界の平均年収581万円は、全業界の平均年収よりも150万円程度高いです。しかし会社の規模や扱う製品、就く職種によって年収は大きく異なります。

もし入社を検討している会社があるのなら、給与やその他待遇については個別にチェックしておくと良いでしょう。

繊維業界の現状の課題

繊維業界の現状の課題として、以下の事柄が挙げられます。

国内市場は縮小傾向にある

中国などの新興国による安価な繊維の輸出や少子高齢化の進行により、国内繊維市場は年々縮小を続けています。

経済産業省の「2030年に向けた繊維産業の展望」によると、繊維産業の概況は以下の通りです。

<衣料品等の国内市場規模推移>

年度

市場規模

1990年

15.3兆円

2018年

11.0兆円

2020年

8.6兆円

※織物・衣服・身の回り品小売業の推移

<繊維工業の製造品出荷額および事業所数の推移>

年度

繊維工業の製品出荷額

事業所数

2005年

43,404億円

23,082ヶ所

2019年

36,941億円

10,586ヶ所

※事業所数は従業者4人以上の事業所

市場規模は1990年頃をピークに縮小を続け、2000年代はおおむね横ばいであったものの、2020年以降はコロナ禍の煽りを受けて2兆円以上のマイナスに落ち込みました。また、製造出荷額も2005〜2019年の間で減少傾向にあり、事業所数は半減しています。

今後、国内マーケットの拡大は見込みづらいことから、海外進出や高付加価値製品の販売など繊維業界各社で経営戦略の大転換が余儀なくされるでしょう。

環境負荷低減への取り組みが求められる

繊維業界ではこれまでの大量生産・大量消費の経済モデルから、廃棄素材の多さや繊維焼却時の環境負荷の大きさが問題となっています。

アパレル分野を例に挙げると、2020年は衣類の国内新規供給量81.9万トンに対し、廃棄量は51.2万トンに上ると推計されています(※)。

また、衣類原材料の調達から廃棄までの過程では9,500万トンのCO2が排出されている(※)など、アパレル分野だけを見ても環境への負荷の大きさが分かるでしょう。

今後の繊維業界では、各社に環境負荷低減の取り組みが求められ、環境に配慮した素材やサスティナブルな繊維の開発が進められていくはずです。

※出典:環境省「ファッションと環境に関する調査業務

繊維業界の今後の動向・将来性

繊維業界の今後の動向として、以下の事柄が挙げられます。

高付加価値戦略へシフト

繊維業界では大手企業を中心に、炭素繊維や高機能ポリエチレン繊維などの開発へと生産をシフトしています。新興国の繊維製品と比べると価格競争力では劣るものの、高性能・高品質の繊維製品を提供することで、活路を見出すのが目的です。

特に炭素から作られる炭素繊維は軽い上に強度や耐熱性に優れ、自動車やスポーツ用品、建築物に使われるなど、需要の見込まれる素材です。

加えて世界規模で脱炭素の動きが広がる中、炭素繊維の開発は日本の繊維業界にとっても大きなビジネスチャンスになると期待されています。

海外市場や非繊維分野への進出

繊維業界では、これまで培った技術力をもとに以下のような非繊維分野への進出も進んでいます。

  • 医療(人口血管/不織布マスクなど)
  • スポーツ(釣り竿/ゴルフクラブ/シューズなど)
  • 自動車・航空機(カーボディ/航空機の尾翼)
  • 建築(建築・仮設資材/免震材/コンクリート補強材など)
  • 宇宙開発(ロケット・スペースシャトル・人工衛星の部材)

また、以下に挙げる大手企業では海外企業との共同開発や、海外法人の設立など積極的に海外進出を進めています。

企業名

進出概要

東レ

ボーイング社(アメリカ)と次世代航空機を共同開発

インドにて自動車用エアバッグ生産工場を設立

帝人

アラミド繊維の製造販売を行うグループ会社をタイに設立

今後も、海外市場や非繊維分野への進出はますます活発になっていくでしょう。

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