製薬業界とは?
製薬業界とは、医薬品の開発・研究・製造・販売を行う仕事です。製薬業界における2021年の市場規模や成長率・利益率は以下の通りです。
業界市場規模 | 13.4兆円 |
成長率 | 7.7% |
利益率 | -810.1% |
出典:業界動向SEARCH.COM「製薬業界」
利益率が低いのは、売上高に対して損失の大きいバイオベンチャー企業を多く含むためです。業界市場規模に関しては10兆円越えと、非常に大きな市場であることがわかります。
製薬業界の代表的な企業
製薬業界の代表的な企業と、その売上高をまとめました。
企業名 | 売上高 |
武田薬品工業 | 3兆5,690億円(※1) |
アステラス製薬 | 1兆2,961億円(※2) |
第一三共 | 1兆440億円(※3) |
中外製薬 | 9,997億円(※4) |
大塚HD | 9,775億円(※5) |
エーザイ | 7,562億円(※6) |
住友ファーマ | 5,600億円(※7) |
興和 | 4,595億円(※8) |
小野薬品工業 | 3,613億円(※9) |
協和キリン | 3,522億円(※10) |
※1 出典:武田薬品工業株式会社「2021年度有価証券報告書」
※2 出典:アステラス製薬株式会社「2021年度有価証券報告書」
※3 出典:第一三共株式会社「2021年度有価証券報告書」
※4 出典:中外製薬株式会社「2021年度有価証券報告書」
※5 出典:大塚ホールディングス株式会社「2021年度有価証券報告書」
※6 出典:エーザイ株式会社「2021年度有価証券報告書」
※7 出典:住友ファーマ株式会社「2021年度有価証券報告書」
※8 出典:興和株式会社「2021年度有価証券報告書」
※9 出典:小野薬品工業株式会社「2021年度有価証券報告書」
※10 出典:協和キリン株式会社「2021年度有価証券報告書」
武田薬品工業の売上高は、2位のアステラス製薬および3位の第一三共の2倍以上と突出しています。
製薬業界の各社は莫大な費用を必要とする薬の開発・研究を行うことから、10位の協和キリンでも売上高は3,522億円と、全体的に企業規模が大きい傾向です。
製薬業界の職種別の仕事内容
製薬業界の職種別の仕事内容を紹介します。
研究
研究職は病気のメカニズムを解明し、新薬を研究する仕事です。製薬業界の根本を支える職種と言えるでしょう。
また多様な科学技術を駆使し、薬となる可能性のある新しい物質を発見したり、新たに創り出すこともあります。薬の有効性や安全性をデータで確認しながら医薬品を作り出すため、その仕事には理系の修士もしくは博士の取得が必要とされることが多いです。
開発
開発職は発売前の新薬に対し、治験の実施・モニタリングを行う仕事です。治験者が薬を服用することで仮説通りの効果が現れるかを確認し、副作用などの異常が起きないかをチェックします。
実際に患者に投薬を行う、責任のある仕事です。業務にあたっては医療関係者とのコミュニケーションも必要とされるでしょう。
MR(医薬情報担当者)
MRは医療従事者へ医薬品の情報提供を行ったり、自社の開発部門へ医薬品の効果をフィードバックしたりする仕事です。他にも、病院やクリニックに訪問し、自社の医薬品を医療機関に販売・流通させるなど、製薬会社の売り上げを支える職種と言えるでしょう。
なお、製薬業界は理系職種が多いですが、MRは文系でも応募可能な職種です。
MR職に興味がある方は、「MR職とは?仕事内容や必要な資格、年収・給料などを紹介」も読んでみてください。
製薬業界の年収
製薬業界の平均年収と、全業界の平均年収を比較してみましょう。
業界 | 平均年収 |
製薬業界 | 778万円(※1) |
全業界 | 433.1万円(※2) |
※1 出典:業界動向SEARCH.COM「製薬業界」
※2 出典:国税庁「民間給与実態統計調査」
製薬業界の平均年収は、全業界の平均の2倍近くと高い水準です。
しかし、製薬業界と一口に言っても大企業だけでなく、バイオベンチャー企業などもあるため、就職先によって給与水準は大きく変動すると予想されます。
製薬業界の現状の課題|「厳しい」という噂は本当?
製薬業界の現状の課題として、以下の事柄が挙げられます。
定期的に薬価の引き下げがある
日本では高齢化による医療費負担を抑制するため、毎年薬価改定が行われています。
近年は薬価改定のたび、全医薬品で数%薬価が引き下げられています。そのため、たとえ新薬の開発に成功したとしても、研究開発費の回収ができず採算がとれなくなってしまう恐れがあるのです。
またジェネリック医薬品の販売により、薬価がさらに安く抑えられてしまうことも、製薬業界の成長率鈍化につながっています。
新薬の開発費用が莫大にかかる
主に製薬会社の収益を支えるのは新薬開発ですが、新薬開発はハイリスク・ハイリターンと言われています。
新薬開発は成功すれば製薬会社に莫大な利益をもたらしますが、開発までには10年単位の期間を要し、開発費用は数百億から数千億円を超えることもあります。
また、開発の途中で有効性や安全性に問題があれば、開発が中止されるケースも少なくありません。莫大な費用を投じた結果、リターンが得られない可能性もある事業なのです。
業界では合併や買収が増加
製薬業界では近年、企業の合併や買収が進んでいます。その背景として、新薬の研究・開発には莫大な費用がかかるため、豊富な資金を持つ企業ほど新薬開発には有利であるからです。
製薬業界における近年の合併や買収の状況は以下の通りです。
時期 | 企業 | 合併や買収状況 |
2018年5月 | 武田薬品工業 | アイルランドの製薬会社シャイアーを子会社化 |
2018年10月 | 富士フイルムRIファーマと富山化学工業 | 統合して富士フイルム富山化学へ |
2019年4月 | 日医工 | エルメッドエーザイの子会社化 |
2020年1月 | サンファーマ | ポーラファルマを吸収合併 |
頻繁に合併や買収が起こるという事実は、就活をするにあたっても知っておくべきでしょう。
製薬業界の今後の動向・将来性|10年後はどうなる?
製薬業界の今後の動向や将来性について解説します。10年後はどうなるのでしょうか。
海外での売上・シェアの拡大が進む
国内の製薬市場は縮小が予想されることから、大手・中堅製薬メーカーはより市場規模の大きい海外での事業拡大を狙っています。
製薬協ニューズレター「国内主要製薬企業の海外売上高上位製商品の特徴」によると、2019年度の国内主要製薬企業14社の海外売上高比率は59.4%です。この数字は、すでに国内売上高比率を上回っています。
特に新興国では、医薬品市場の需要拡大が予想されます。さらなる収益増大とシェア拡大を目指す国内製薬メーカーの海外進出は、今後ますます加速していくでしょう。
バイオ医薬品が次世代の製薬技術として注目を集める
次世代の製薬技術として昨今注目されているのが「バイオ医薬品」です。
バイオ医薬品とは、生物のもつ酵素・ホルモン・抗体などを応用して生み出される医薬品です。従来の治療薬では充分な効果が得られなかった病気に対してもアプローチできると期待されています。
【今まで開発されたバイオ医薬品の例】
- ヒトインスリン(糖尿病の治療薬)
- インターフェロン(がん細胞の増殖を抑える治療薬)
- コロニー刺激因子(白血球減少症の治療薬)
バイオ医薬品の分子構造は複雑であり、製造には高い技術が必要とされてきました。しかし、近年の製薬技術の進歩に伴い、今後はバイオ医薬品の開発が加速していくと予想されています。
創薬AIで新薬の開発効率アップを目指す
製薬業界でも、AIは新時代の技術として注目され始めました。現在、製薬企業や研究所・大学・IT企業など90機関が、共同事業「ライフ インテリジェンス コンソーシアム」にて創薬AIの開発を行っています。
創薬AIは病気の原因となる物質や新薬の候補となる物質を短期間で見つけたり、新薬の安全性を確かめたりする作業で役立てられると言われています。
これまで、新薬の開発には膨大な時間と費用を要していました。また、時間と費用を投じても開発が成功するとは限らないため、大企業にしか開発は許されなかった状況です。もし本格的に創薬AIが導入されるようになれば、新薬開発にかかる時間や費用といったコストの大幅削減に繋がり、開発効率の向上が期待できるでしょう。