運送業界

運送業界とは?年収事情や現状の課題、今後の動向・将来性などを解説

運送業界とは?

運送業界とは、トラックなどの車両を活用し、依頼された場所・時間に荷物を届けるために必要な活動を行う企業・人々が属する業界です。

運送業界の収入源は、依頼者から受け取る手数料や送料です。運送業界は宅急便のような個人目的の他、工場間輸送や別拠点輸送など法人に対しても欠かせないサービスを提供しています。

私たち一般消費者がいつでも欲しいものを手に入れられる背景には、運送業界で働く人々の活躍があります。運送業界が生産者から卸売業者、小売業者、最終消費者をつなぐパイプ的役割を果たしてくれているおかげで、速やかに荷物が届いているとも言えるでしょう。

2021年における運送業界の市場規模や成長率・利益率は次の通りです。

業界市場規模

13.9兆円

成長率

-3.0%

利益率

4.5%

出典:業界動向SEARCH.COM「運送業界

運送業界の市場規模は13.9兆円と大きく、インフラとして生活に欠かせない役割を果たしていることが読み取れます。

運送業界の代表的な企業と売上高ランキング

次に運送業界を代表する企業を、売上高が多い順に紹介します。

ランキング

業界名

売上高

1位

日本郵政株式会社

20,030億円(※1)

2位

ヤマトホールディングス株式会社

17,936億円(※2)

3位

日本通運株式会社

17,632億円(※3)

4位

SGホールディングス

15,883億円(※4)

5位

株式会社近鉄エクスプレス

9,804億円(※5)

6位

株式会社日立物流

7,436億円(※6)

7位

センコーグループホールディングス株式会社

6,231億円(※7)

8位

セイノーホールディングス株式会社.

6,076億円(※8)

9位

山九株式会社

5,538億円(※9)

10位

SBSホールディングス株式会社

4,034億円(※10)

※1 出典:日本郵政株式会社「有価証券報告書
※2 出典:ヤマトホールディングス株式会社「有価証券報告書
※3 出典: 日本通運株式会社「有価証券報告書
※4 出典:SGホールディングス「有価証券報告書
※5 出典:株式会社近鉄エクスプレス「有価証券報告書
※6 出典:株式会社日立物流「有価証券報告書
※7 出典:センコーグループホールディングス株式会社「有価証券報告書
※8 出典:セイノーホールディングス株式会社.「有価証券報告書
※9 出典:山九株式会社「有価証券報告書
※10 出典:SBSホールディングス株式会社「有価証券報告書

運送業界において売上高トップに君臨しているのは、日本郵政株式会社です。売上高20,030億円は上位10社の売上高のうち18.1%のシェアを占めます。宅配便サービスでは「ゆうパック」が有名であり、受取人不在でも荷物が受け取れる「メール便」も人気があります。

売上高2位に続くのは、ヤマトホールディングス株式会社です。売上高17,936億円は上位10社のうち16.2%にあたります。

ヤマトホールディングスは「クロネコヤマトの宅急便」として個人向け宅配サービスを日本で初めて提供した会社です。実は「宅急便」は商標名であり、「ヤマトホールディングスが提供する宅配便サービス」を意味しています。

そして売上高3位に位置するのは、日本通運株式会社です。売上高17,632億円は上位10社のうち15.9%を占めます。総合物流の担い手として幅広いニーズに応え、陸海空どの輸送手段にも対応できる総合力が強みです。

運送業界の職種別の仕事内容

希望した時間・場所に荷物を届けてくれる運送業界には、それに付随するさまざまな業務があります。

ここからは、運送業界における代表的な仕事内容を、職種別に紹介します。

  • 配送・輸送
  • 保管
  • 荷役
  • 梱包・包装
  • 流通加工
  • 情報システム開発・管理
  • 法人営業

配送・輸送

配送・輸送はトラックで依頼された荷物を指定時間・場所まで運ぶ業務です。宅配便などを利用したことがある人なら、身近でイメージしやすい運送業界の仕事と言っていいでしょう。

実は配送・輸送と言っても、運ぶ荷物の多さや移動距離によって呼び方が異なります。

一般的に、大量の荷物を遠く離れた場所まで運ぶ作業を輸送と呼び、大型トラックが使用されます。工場から工場など2拠点間の移動がメインであり、法人の利用が多いです。

一方、比較的小さな荷物を近い場所へ運ぶことを、配送と言います。宅急便がわかりやすい事例で、小型トラックが使用されます。配送ドライバーは近隣地域を巡回しながらいろいろな場所に荷物を届けるのが特徴です。

このように、同じ荷物の移動でも、顧客の種類や仕事の進め方が異なります。

保管

保管は依頼された荷物を指定日まで自社の倉庫や物流センターで預かる業務です。

荷物の中には食品のように温度や湿度の管理が必要なものもあり、品質を損なわずに管理する設備や技術が求められます。受注から配送までのスケージュールを組み立て、在庫の管理をするのも仕事の一部です。

荷役

荷役(にやく)とは、依頼された荷物を倉庫に受け入れ、トラックに載せるまでに必要な一連の作業のことを言います。

特に人手で持ち上げるのが難しい大型の荷物を取り扱うときは、フォークリフトやクレーンなど専用機器が使用されます。これらの機器を取り扱うには、資格の取得が必要です。

梱包・包装

梱包・包装は、荷物を届ける過程において、衝撃で荷物が破損したり傷ついたりしないように荷物を梱包材で包む仕事です。最近は環境を意識してリサイクルが可能な梱包材が選ばれる傾向にあります。

流通加工

流通加工は、値札付けやラベル貼り、組み立てなど、荷物の輸送・保管に留まらない幅広いサービスを提供するために行われている業務です。

主に総合物流を担う運送企業で積極的に行われており、荷物の輸送に必要な作業を代行することで、依頼者の手間やコスト軽減に一役買っています。最近では本来小売業や卸売業がすべき業務まで運送業者が代行するケースが増えていて、業界の垣根がなくなっています。

情報システム開発・管理

荷物を必要なとき、必要な場所、必要な量だけ届けるために開発されているのが情報システムです。

運送業界ではこの情報システムを駆使し、「荷物がいつ届くのか」「今どこにあるのか」を管理して、顧客に情報を届けています。大切なのは、いかに待ち時間を減らし、最短の時間で顧客に荷物を届けられるかです。

業務の無駄を省きコストを削減する意味でも、情報システム開発に力を入れる企業が増えています。

法人営業

法人営業は、運送や保管など潜在ニーズのある顧客を訪問し、自社サービスを提案して売上に結びつける仕事です。

商品の配送や保管には費用がかかるため、小・中規模業者がすべてを自社でまかなうのは難易度が高いです。そのため、法人営業は企業の抱える課題や問題を聞き取り、顧客の課題を解決できる運送・保管サービスを提案します。

物流を専門に手がける運送企業がサービスを代行することでコストを削減し、スピーディーで効率的な荷物の輸送が実現します。

運送業界の年収

運送業界の年収

就職先に運送業界を選んだら、年収はいくらもらえるのでしょうか?ここでは運送業界と全業界の年収を比較してみましょう。

業界

年収の目安

運送業界

400~800万円(※1)

全業界

443万円(※2)

※1 業界動向SEARCH.COM「運送業界 平均年収ランキング(2021 – 2022年)」から目安値を算出
※2 出典:国税庁「民間給与実態統計調査

運送業界の平均年収は、400〜800万円と企業によって差が大きいです。

なお、運送業界と言えばトラックドライバーのイメージがある方も多いでしょう。トラックドライバーの年収については、2023年4月における割増賃金変更、2024年4月における時間外労働の制限により、今後改善されていくことが期待されています。

今後の動向も含め、就職する際には求人条件をよく確認して会社を選ぶことが大切です。

運送業界の現状の課題

運送業界が抱える現状の課題として、以下の3つが挙げられます。

  • 燃料高による利益圧迫
  • トラックドライバーの過酷な労働実態
  • トラックドライバーの深刻な人手不足

それぞれ詳しく解説していきます。

燃料高による利益圧迫

運送業界が抱える課題の1つ目は、燃料高による利益圧迫です。トラックを活用して荷物を届ける運送業界において、人件費の次にかかるのが燃料費です。

資源の少ない日本は燃料を産油国からの輸入に頼っていますが、燃料費は円安や紛争など世界情勢によって左右されます。

本来であれば、燃料費の上昇分を送料や手数料に上乗せすれば済む話ですが、実際にはそう簡単にはいきません。運送業界の大半は中小規模業者であり、どうしても立場上、荷物の依頼主に対して価格変更の理解を得るのが難しい実情があります。

トラックドライバーの過酷な労働実態

運送業界が抱える課題の2つ目は、トラックドライバーの過酷な労働実態です。

賃金の安さ

以下は、令和3年におけるトラックドライバーの年間所得です。

区分

年間所得

大型トラック運転者

463万円

中小型トラック運転者

431万円

全業界平均

489万円

※参考:全日本トラック協会「トラック運送業界の2024年問題について

全業界の平均を下回る数値となっており、重労働な業務内容を考えると賃金は安いと言えます。

労働時間の長さ

労働時間の長さも問題です。以下は、令和3年におけるトラックドライバーの年間労働時間です。

区分

年間労働時間

大型トラック運転者

2,544時間

中小型トラック運転者

2,484時間

全業界平均

2,112時間

※参考:全日本トラック協会「トラック運送業界の2024年問題について

全業界平均より、年間労働時間が300〜400時間程度多くなっています。

年間所得と照らし合わせて考えると、トラックドライバーの労働実態は過酷と言えるでしょう。

トラックドライバーの深刻な人手不足

運送業界が抱える課題の3つ目は、トラックドライバーの深刻な人手不足です。

全日本トラック協会の「有効求人倍率の推移について」によると、全職業の有効求人倍率が1.0倍プラスアルファで推移しているのに対し、貨物自動車運転者は2.0~3.0の倍率で推移しています。

※有効求人倍率:「仕事を求めている人に対しどの程の求人があるか」を示した数値

「大変な割に給料はそれほど良くない」というイメージが強いのか、常に求人が出回っている状況です。人手不足が続いた結果、現在働いている人への負担が大きくなるといった悪循環が続いています。

運送業界の今後の動向・将来性

燃料高やドライバーの人材不足に悩む運送業界ですが、課題を克服すべく国と一丸になって取り組みを開始しています。

ここからは、そのような運送業界の主な取り組みを紹介します。

  • 給料・残業時間などドライバーの待遇改善
  • スマートロジスティクスへの注力
  • 新たな市場を求め海外進出が活発化
  • 共同配送やモーダルシフトの活用

給料・残業時間のなどドライバーの待遇改善

運送業界による取り組みの1つ目は、給料・残業時間におけるドライバーの待遇改善です。

国は働き方改革の推進を目的に、自動車運転業務における時間外労働を「最大年960時間まで」とする法律改正を行いました。法律が施行されるのは2024年4月1日からであり、法律に違反すると、6ヶ月の懲役または30万円以下の懲役が企業に科されます。

さらに、2023年4月1日からは中小企業においても、月60時間を超える時間外労働に対して50%の割り増し賃金を支払わなければなりません。

このような法律改正の動きを受け、運送業界はさまざまな業務改善への取り組みを始めています。具体的には、長時間労働の原因である荷待ち時間の削減や荷役作業の効率化、週休2日制の導入、適性運賃の交渉などが挙げられます。

ドライバーの労働環境が改善すれば、ドライバーを目指す人が増え、人材不足の解消にもつながっていくでしょう。

スマートロジスティクスへの注力

運送業界による取り組みの2つ目は、スマートロジスティクスへの注力です。スマートロジスティクスとは、人工知能やインターネットなどの最新技術を活用し、受注から輸送までの業務を一貫して効率化していこうとする考え方です。

例えば、荷物の在庫管理を自動化すれば、リアルタイムで荷物の場所を確認でき、これまで在庫管理に割いていた人員を他の作業に振り分けられます。

また、最適な配車ルートを計算できる機能をトラックに導入すれば、ドライバーは自身の経験や勘に頼ることなく、最短距離・最短時間で目的地まで荷物を運べます。

このように、さまざまな業務の無駄を省くことで労働時間やコストを削減し、人手不足を解消しようとスマートロジスティクスに力を入れる企業が増えています。

新たな市場を求め海外進出が活発化

運送業界による取り組みの3つ目は、新たな市場を求めた海外進出の活発化です。

近年経済のグローバル化に伴い、海外進出する企業が増えています。海外進出する企業が必要とするのが、現地で効率的に物を運べる物流網です。現地で原料を調達し、商品の生産、販売、消費までを一貫して管理できる仕組み作りが求められています。

例えば日本郵政は、2009年のオーストラリアにおける物流企業買収をきっかけに海外進出を加速させました。現在では世界50ヶ国にサービスを提供するグローバル企業に成長しています。

ヤマトホールディングスも海外進出に力を入れる企業の一つです。主力である宅急便事業は世界200ヶ国での取引があります。

このような各企業の海外進出は、今後も継続されていくでしょう。

共同配送やモーダルシフトの活用

運送業界による取り組みの4つ目は、共同配送やモーダルシフトの活用です。共同配送やモーダルシフトは、運送業界の人材不足を解消するべく、国土交通省が力を入れている施策の一つです。

共同配送

共同配送とは、複数の企業が1台のトラックを活用して荷物を輸送する方法です。

複数の企業が1台のトラックを共同で活用することで、業務に必要なドライバーの数を減らせます。またトラック内に積む荷物量が増えるので、一度の輸送にかかるコスト(人件費や燃料費)を削減し、業務の効率化にもつながります。

モーダルシフト

モーダルシフトとは、荷物の輸送手段をトラックだけでなく、鉄道や船など他の手段に変えることです。輸送手段を変更することで集中していた負担が軽減され、トラックドライバーの人材不足解消にもつながると期待されています。

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