鉄鋼業界とは?
鉄鋼業界とは、建築土木や自動車、産業機械、電気機器などの製造業をはじめ、私たちの生活に欠かせない鉄鋼を製造する基幹産業のひとつです。
鉄鋼業界の多くは鉄鋼メーカーであり、大きく分けて下記2つのメーカーがあります。
- 高炉メーカー
- 電炉メーカー
高炉メーカーとは、鉄鉱石などの原材料を高炉で製鉄して、製鋼や鋼材製品の生産まで一貫して行うメーカーです。一方で電炉メーカーとは、鉄スクラップを電気炉で溶解して不純物を取り除き、製鋼や鋼材製品を生産するメーカーです。
また、電炉メーカーの中でも、取り扱う鋼材によって「普通鋼メーカー」と「特殊鋼メーカー」に分けられます。
2021年の市場規模や成長率等は以下の通りです。
業界市場規模 | 13.9兆円(22位/190業界) |
成長率 | -3.8%(144位/190業界) |
利益率 | 1.5%(113位/190業界) |
出典:業界動向SEARCH.COM「鉄鋼業界」
鉄鋼業界の代表的な企業
鉄鋼業界の代表的な企業と、その売上高をまとめました。
企業名 | 売上高 |
日本製鉄 | 6.80兆円(※1) |
JFEホールディングス | 4.36兆円(※2) |
神戸製鋼所 | 2.08兆円(※3) |
日立金属 | 0.94兆円(※4) |
大同特殊鋼 | 0.52兆円(※5) |
山陽特殊製鋼 | 0.36兆円(※8) |
共英製鋼 | 0.29兆円(※6) |
トピー工業 | 0.27兆円(※7) |
愛知製鋼 | 0.26兆円(※9) |
日本製鋼所 | 0.21兆円(※10) |
※1 出典:日本製鉄株式会社「2021年度有価証券報告書」
※2 出典:JFEホールディングス株式会社「2021年度有価証券報告書」
※3 出典:株式会社神戸製鋼所「2021年度有価証券報告書」
※4 出典:日立金属株式会社「2021年度有価証券報告書」
※5 出典:大同特殊鋼株式会社「2021年度有価証券報告書」
※6 出典:山陽特殊製鋼株式会社「2021年度有価証券報告書」
※7 出典:共英製鋼株式会社「2021年度有価証券報告書」
※8 出典:トピー工業株式会社「2021年度有価証券報告書」
※9 出典:愛知製鋼株式会社「2021年度有価証券報告書」
※10 出典:株式会社日本製鋼所「2021年度有価証券報告書」
大規模産業である鉄鋼業界の中でも、日本製鉄は業界シェア約3割を占めています。また、売上上位3企業で約7割のシェアを獲得しているなど、シェアが一部の企業に集中しているのがわかるでしょう。
とはいえ、4位以下の企業の売上高も数千億円であり、業界全体の規模が大きいことが伺えます。
鉄鋼業界の職種別の仕事内容
鉄鋼業界の職種には、一般的な事務などの他に以下のようなものがあります。
- 研究開発
- 調達
- 生産・生産管理
- 製造技術
- 設備技術
- 営業
それぞれの仕事内容について、詳しく見ていきましょう。
研究開発
研究開発とは、新たな特性を持つ鉄鋼など市場のニーズに合わせた商品を開発する仕事です。
鋼材には硬度や弾力、粘り、耐熱性などのさまざまな特性があり、用途によって使い分けされています。どのような鋼材が必要かは、鋼材を扱う企業によって異なります。
それぞれのニーズに合った特性の鉄鋼商品を開発する研究開発は、鉄鋼業界の進化に欠かせない重要な仕事です。
調達
用途に応じた鉄鋼を効率良くかつ高品質で生産することは、他社との競争のためには欠かせません。そのため研究開発は、自社の将来を担う存在です。
調達
鉄鋼の生産には、鉄鉱石や石炭をはじめ、大量の原材料が欠かせません。これら鉄鋼の製造に必要な材料や燃料を確保するために、仕入れルートの構築や買付を行うのが調達の仕事です。
原材料がなくなって生産が停止してしまうと、売上にも大きく影響します。そのため、生産計画に合わせて仕入れる量やタイミングを管理しなければなりません。
生産・生産管理
生産・生産管理は、調達や営業などのさまざまな部門と連携して、納期に合った効率の良い生産スケジュールを計画します。また、計画通りに生産するため、生産工程の効率化や在庫の管理、資材の発注などを行う必要もあるでしょう。
工場の稼働スケジュールなど、大規模な計画を立てる必要もあります。生産・生産管理は安全に効率良く工場を稼働するうえで、とくに重要な仕事のひとつです。
製造技術
製造技術は研究開発で新たに開発した商品について、要望通りの形に製造するための技術を開発する仕事です。品質や機能をはじめ、低コスト・高効率で製造するために、さまざまな製造技術を開発します。
設備技術
設備技術は、製造設備や工場、インフラの建築や保全など、設備に関する技術開発を行う仕事です。大規模な工場からライン内の設備に至るまで、さまざまな設備の技術開発を行います。
鉄鋼の生産には多くの設備が使用されており、中には数億円もするような機械もあります。多くの予算を用いて大規模な設備を開発できる点は、設備技術のやりがいと言えるでしょう。
営業
営業は、建設業や自動車業などの関わりが深い業界をはじめ、鉄鋼を利用するさまざまな業界に対して自社製品の提案を行う仕事です。国内外にわたって市場ニーズをいち早く把握し、新たなビジネスを開拓する必要があります。
一つの商品を製造しようとしたとき、鉄鋼は長期間大量に必要になるケースが多く、一つひとつの取引が大規模になりやすいです。そのため、営業が成功したときに大きな達成感を得られます。
営業職に興味がある方は、「営業職とは何か説明!種類や仕事内容、向いている人の特徴や年収」も読んでみてください。
鉄鋼業界の年収
鉄鋼業界の平均年収と、全業界の平均年収を比較してみましょう。
業界 | 平均年収 |
鉄鋼業界 | 610万円(※1) |
全業界 | 433.1万円(※2) |
※1 出典:業界動向SEARCH.COM「鉄鋼業界」
※2 出典:国税庁「民間給与実態統計調査」
鉄鋼業界の平均年収610万円は、全業界の平均年収よりも180万円ほど高いです。企業によってはキャリアを積むことで、年収1,000万円を超えることもあります。
もちろん企業によって年収にバラつきはあるものの、高年収を目指しやすい業界と言えるでしょう。
鉄鋼業界の現状の課題
大規模な産業である鉄鋼業界ですが、下記のような課題もあります。
- 国内需要の減少
- 原材料の不足
- 環境問題への懸念
それぞれどのような課題か、詳しく見ていきましょう。
国内需要の減少
日本の人口減少に伴い、鉄鋼の国内需要は今後伸び悩むことが予想されています。そのため、国内だけではなく海外にも目を向ける必要があるでしょう。
とは言え海外では、中国とインドが粗鋼生産量のトップ2となっており、日本はそれに次ぐ3位という立ち位置です。そのため、中国やインドなどの大規模輸出メーカーに対抗するため、国際競争力を強化する必要があるでしょう。
原材料の不足
日本の鉄鋼業界は、原材料を輸入に頼っています。仮に海外企業の台頭により輸入ルートがなくなってしまえば、鉄鋼の生産が難しくなるでしょう。
そこで注目したいのが、廃棄されている家電製品などのスクラップです。スクラップは都市鉱山とも呼ばれ、貴金属やレアメタルなどの資源が含まれています。
これら資源のリサイクルをはじめ、原材料不足の対策が求められます。
環境問題への懸念
鉄鋼を製造する際には、二酸化炭素などの大量の温室効果ガスが発生します。環境問題は世界的にも重要視されており、対策が欠かせません。
そのため、水素エネルギーの利用や二酸化炭素の回収など、地球温暖化対策のための省エネ設備開発に取り組む必要があります。
鉄鋼業界の今後の動向・将来性
ここでは、鉄鋼業界の今後の動向や将来性について、下記3つの内容を解説します。
- 業界再編が活発になる
- 世界的な需要は増加する
- 各企業における技術力の強化が進む
業界再編が活発になる
鉄鋼業界は、中国やインドなどの台頭によって世界的に生産過剰に陥っています。それにより、汎用鋼材の価格競争が激化しているのです。
このような背景から、生産拠点の統廃合による稼働率・生産性向上、競争力強化を狙い、業界再編の動きが活発になっています。今後も、グローバルなM&Aや事業提携が活発に行われるでしょう。
世界的な需要は増加する
日本国内における鉄鋼の需要は、今後減少していくと予想されるでしょう。とは言え、とくにアジア地域などの海外においてはインフラ投資の拡張が続くと見られており、鋼材の需要は引き続き増加すると考えられます。
そのため、今後は海外展開を進める企業も多くなるでしょう。
各企業における技術力の強化が進む
原材料を輸入に頼っている日本は、生産力や規模ではどうしても中国やインドなどに劣ります。そのため、強みである技術力を駆使して、特殊鋼材などの分野で競争力を発揮することが重要です。
高機能な高級鋼材である「ハイテン」をはじめ、さまざまな特殊鋼材を製造する技術力は海外よりも日本の方が優れています。日本の鉄鋼業界が成長するためにも、技術力の強化は今後も進むでしょう。