鉄道業界とは?
鉄道業界とは、鉄道によって旅客や貨物を運ぶビジネスを行う業界です。
鉄道の敷設には巨額の資金を要します。そのため規模の大きい企業のみが名を連ねており、社会インフラとして安定した需要を維持している業界です。鉄道業界は多くの就労者によって支えられており、さまざまな職種の仕事が存在します。
2021年における鉄道業界の市場規模や成長率等は、以下の通りです。
業界市場規模 | 11.4兆円 |
成長率 | −9.4% |
利益率 | −1.4% |
出典:業界動向SEARCH.COM「鉄道業界」
コロナ禍の影響で人の移動が制限されたため、2019年度以降の鉄道業界は成長率や利益率ともに苦しい状況となりました。
アフターコロナの時代を迎え鉄道需要は回復傾向にあるものの、テレワークの普及や人口減少といった追い風に直面しています。そのため、各社は新たな収益源を獲得すべく、事業の多角化を模索している最中です。
鉄道業界の事業区分
鉄道業界においては、線路の沿線地域に根ざした経営が行われます。そのため地方ごとに多くの企業が点在しており、事業者の規模もさまざまです。
ここでは、鉄道業界の区分を紹介します。
旅客鉄道
旅客鉄道は、人の輸送に携わるビジネスです。通勤や通学、観光のように移動の目的は人それぞれであるため、普通車両から新幹線、豪華な寝台車両など幅広いサービスを展開しています。
旅客鉄道は、以下のように細分化されます。
JR
JRは、旧国鉄の民営化によって誕生した国内最大手の鉄道事業者です。単体の企業ではなく、地域ごとに以下の6社による経営が行われています。
- JR北海道
- JR東日本
- JR東海
- JR西日本
- JR四国
- JR九州
JRは、国内最大級の長さの線路を保有しています。そのため、新幹線や寝台特急といった長距離輸送を数多く展開している点も特徴です。
大手民間鉄道
大手民間鉄道は、首都圏や大都市を中心として展開する鉄道グループです。特定の地域において、JRに匹敵する勢力を誇っています。鉄道輸送だけでなく、沿線の不動産開発や商業施設の経営など、多角的に事業を展開している点が特徴です。
準大手・中小民間鉄道
準大手・中小民間鉄道とは、短距離路線を運営する民間企業です。加えて、大手民間鉄道と比較して、保有する路線の本数が少ない点も特徴です。
一部の地域では、半官半民の「第三セクター」が鉄道事業を運営する場合もあります。路面電車や山岳鉄道など、特殊な車両を運行する鉄道事業者も存在します。
モノレール・新交通システム
モノレールやライトレール(LRT)など、小規模な輸送網を展開する企業もあります。輸送できる人数は少ないものの、地域の交通手段として地位を確立しています。
貨物鉄道
貨物鉄道は、コンテナの鉄道輸送によって物流を支えるビジネスです。一般消費者にとっては馴染みが薄いものの、鉄道業界の重要な収益源です。鉄道は安価で大量輸送が可能であり、環境負荷も小さいため注目を集めています。
貨物鉄道は、以下のように細分化されます。
JR貨物
JR貨物は、JRの輸送網を活かして貨物事業を営む企業です。全国への長距離輸送が可能であり、石油や農作物などの大量輸送に適しています。
民間貨物鉄道
主に港湾や臨海部を中心に、民間の貨物鉄道鉄道が存在します。これらの貨物路線は、貿易による物資を輸送するために整備されました。他にも、石油輸送など特定物資の運搬に特化した民間貨物鉄道も存在します。
鉄道業界が展開するビジネス
鉄道事業者は、単に輸送のみを担っているわけではありません。鉄道業界では経営の多角化が進んでおり、幅広いビジネスを展開しています。
運輸
鉄道業界の収益の柱が、旅客と貨物の輸送ビジネスです。鉄道は長距離輸送に適しており、自動車と比較して輸送コストの低さが魅力です。近年では、旅客車両で人と貨物を同時に運ぶなど、新たな輸送スタイルも確立しました。
不動産
沿線の不動産開発も、鉄道会社の重要な事業です。沿線に住む人の人口が増えれば、鉄道輸送量の増加も期待できるからです。
そのため鉄道会社では、住宅地の開発に力を入れています。宅地の造成に加え、商業施設やホテルなど住環境の整備を手掛けています。特に大手民間鉄道は、不動産開発によって飛躍的な事業拡大を成し遂げました。
流通・小売
鉄道会社では、流通業や小売業も展開しています。例えば駅周辺では、スーパーマーケットやデパートを経営し、沿線住民の生活を支えています。他にも、駅構内の売店や商業施設の管理・運営も鉄道ビジネスのひとつです。
レジャー・観光
鉄道会社が遊園地やゴルフ場、観光施設を運営している場合もあります。沿線に人気のアミューズメント施設があれば、鉄道利用者の増加を見込めるからです。一般的に、郊外に大規模な施設が建設され、周辺地域からの集客効果をもたらしています。
鉄道業界の代表的な企業
鉄道業界の代表的な企業と、その売上高をまとめました。
企業名 | 売上高 |
JR東日本株式会社 | 19,789億円(※1) |
JR西日本株式会社 | 10,311億円(※2) |
東急株式会社 | 8,791億円(※3) |
阪急阪神ホールディングス株式会社 | 7,462億円(※4) |
名古屋鉄道株式会社 | 4,909億円(※5) |
西日本鉄道株式会社 | 4,271億円(※6) |
西武ホールディングス株式会社 | 3,968億円(※7) |
小田急電鉄株式会社 | 3,587億円(※8) |
東京地下鉄株式会社 | 3,069億円(※9) |
JR貨物株式会社 | 1,866億円(※10) |
※1出典:JR東日本株式会社「有価証券報告書」
※2出典:JR西日本株式会社「2022年3月期 有価証券報告書」
※3出典:東急株式会社「決算短信〔日本基準〕(連結)」
※4出典:阪急阪神ホールディングス株式会社「2022年3月期 決算短信」
※5出典:名古屋鉄道株式会社「決算短信〔日本基準〕」
※6出典:西日本鉄道株式会社「財務ハイライト」
※7出典:西武ホールディングス株式会社「連結業績ハイライト」
※8出典:小田急電鉄株式会社「決算短信」
※9出典:東京地下鉄株式会社「2022年3月期 決算情報」
※10出典:JR貨物株式会社「決算短信」
主要な鉄道網の多くは、明治から昭和の初期にかけて敷設されました。そのため鉄道業界は、大規模な老舗企業ばかりが名を連ねています。その筆頭は、旧国鉄を母体とするJRグループであり、鉄道業界の大勢を占めています。
鉄道業界の職種別の仕事内容
鉄道事業では、駅舎や車両、線路など多くの設備を管理しなければなりません。加えて、利用者の人数も膨大です。トラブルなく輸送業務を進めるために、さまざまな職種の仕事が存在します。
乗務員・指令員の場合
乗務員や指令員は、列車の運行に直接関わる業務です。具体的には、以下の3つの職種が挙げられます。
- 運転士
- 車掌
- 輸送指令
輸送指令とは運行計画を管理し、路線全体を指揮する仕事です。輸送指令の指示にもとづいて、運転士と車掌が車両の運行に務めます。
駅員の場合
駅員は、駅舎において顧客対応に当たります。具体的な業務は、改札や切符販売窓口での窓口対応やトラブル処置です。他にもプラットフォームにおける乗客の誘導など、駅舎の安全管理も駅員の重要な役割です。
列車制御システム・エネルギーの場合
列車が安全に運行するためには、信号や通信の存在が欠かせません。そのため、信号や通信網、輸送管理システムを支える仕事があります。
加えて、鉄道の運行に欠かせないのが電力です。鉄道会社には、電力の供給を担うエネルギー部門の業務が存在します。JRなどの大手鉄道会社では、自社で発電所を運営している場合もあります。
線路・土木・建設の場合
線路の敷設や駅舎の建設が必要なため、土木工事やメンテナンスの業務があります。具体的には、以下の3種類の役割が存在します。
- 工務:橋梁やトンネルなどの点検、メンテナンス
- 保線:線路のメンテナンス、新設
- 建設:橋梁やトンネルの建設、駅舎や駅周辺施設の建設
鉄道会社では日々のメンテナンスから大規模工事まで、幅広い対応が可能です。このように協力会社に頼るだけでなく、自社でも工事に対応できる体制が築かれています。
車両・機械整備の場合
車両や機械の整備に従事する社員もいます。鉄道車両には、こまめなメンテナンスが欠かせません。
加えて安全を維持するために、定期的な点検や検査を行っています。この他に、駅の自動改札やホームドア、自動券売機のメンテナンスも重要な業務です。
安全管理の場合
鉄道事業における最重要項目は「安全安心」です。事故を未然に防ぐために、鉄道会社には安全管理を専門に行う部署があります。安全管理の仕事では、作業手順の安全性審査や社内教育が行われています。
研究開発の場合
大手の鉄道会社では、研究開発職の仕事があります。次世代の鉄道技術を確立する目的で、車両・運輸システムや建築技術の研究開発を総合的に進めています。
例えば近年の列車では、監視カメラや車掌への通報システムが新設されました。このように時代の変化に対応するために、新技術の実験や検証を進める仕事です。
企画・営業の場合
企画・営業の役割は、鉄道を利用した生活の提案や営業活動です。具体的には、観光地と協力した人の呼び込みや、沿線への移住を促進するキャンペーンを行います。他にも、駅舎の周辺に商業施設を呼び込むなど、沿線の魅力向上に向けて営業活動を行います。
なお、営業に興味がある方は、「営業」の紹介記事も読んでみてください。
鉄道業界の年収や給料
鉄道業界の平均年収と、全業界の平均年収を比較します。
業界 | 平均年収 |
海運・鉄道・空輸・陸運 | 527万円(※1) |
全業界 | 433.1万円(※2) |
※1出典:マイナビ転職「2022年版 業種別モデル年収平均ランキング」
※2出典:国税庁「民間給与実態統計調査」
鉄道業界ではコロナ禍による年収の落ち込みがあったものの、全業界よりも高い賃金を維持しています。
ただし鉄道業界の賃金は、沿線の人口に左右される側面も大きいです。そのため、過疎地域と首都圏では賃金の差が大きく開きます。
また線路の保守など夜勤業務に従事する社員は、追加の手当を期待できます。
鉄道業界の現状の課題
長年の間、鉄道は人々の移動を安定的に支えてきました。しかし人口減少や地方の過疎化が顕著になった現在では、さまざまな課題を抱えています。
赤字路線の増加
赤字路線の増加は、鉄道業界にとって深刻な問題です。
地方の鉄道網の中には、利用者の減少傾向が見られる路線もあります。このように、多くの鉄道会社では一部の不採算路線を抱えています。
廃線も視野に入れながら、地元自治体と協議することも求められています。
老朽化や防災への対策の遅れ
鉄道業界では、橋梁やトンネルなどの老朽化対策に追われています。
多くの路線では、開通から半世紀以上の時間が経過しました。そのため、多くの個所で改修や耐震化の工事が必要な状況です。
加えて、近年では自然災害の脅威が増しており、追加の防災対策も求められています。
鉄道業界の今後の動向・将来性
鉄道業界には課題が山積している一方で、将来に向けた投資や事業拡大も着実に進行しています。
省力化や自動化に向けた開発
鉄道業界では、省力化や自動化を積極的に進めています。
労働者不足は、鉄道業界においても深刻です。そこで機械化や自動化を推し進め、従業員の作業負荷の低減に向けた活動を続けています。
具体的には、保線作業でのロボット導入や検査車両の開発などです。機械化によって、少ない作業員でも対応できる体制を目指しています。
海外に向けた鉄道技術の輸出
日本の鉄道技術を、海外に輸出する取り組みも重要です。
アフリカや東南アジアを中心に、新興国では鉄道の新規敷設が計画されています。そこで、日本の鉄道技術を海外に輸出する計画が進行しています。過去にはエジプトやUAEへ鉄道システムが輸出されました。
車両だけでなく、運行システムやメンテナンス技術も輸出できるため、巨額のビジネスチャンスが眠っています。