石油業界とは?
石油業界とは、油田から採掘された原油を精製して販売する業界です。
我々が社会活動を継続する上では、エネルギー資源の存在が欠かせません。そこで石油業界は、ガソリンや灯油の供給を通じて人々の生活を支えています。
2021年における石油業界の市場規模や成長率等は、以下の通りです。
業界市場規模 | 22.5兆円 |
成長率 | 5.6% |
利益率 | 4.4% |
出典:業界動向SEARCH.COM「石油業界」
業界市場規模からも、石油業界が社会インフラとして巨大な市場を形成していることがわかります。
石油業界に属する企業の区分
石油資源は主に中東地域で採掘されて、船舶で日本へ輸入されます。最終消費者の手に届くまで長い工程を要するため、さまざまな役割を持つ企業が介在します。
石油メジャー
石油メジャー(国際石油資本)は、石油業界における最大手企業です。強大な政治力や資本力を背景に、世界中の石油利権や販売網を支配しています。第二次世界大戦後は欧米資本による寡占状態であったものの、近年では中東や新興国の石油企業が台頭してきました。
石油開発
石油開発の役割は、油田探鉱と掘削です。産油地の地質調査を行い、地権者から権益を得た上で掘削リグ(井戸)を建設します。油田のほとんどは中東やオーストラリアなどに点在しているため、石油開発の企業では海外で仕事をする機会が多いです。
石油元売
石油元売は、原油の精製と消費者への小売を担当します。
油田から採掘された原油は、そのままの状態では利用できません。まずは製油所において「精製」を行い、原油をガソリンやナフサ、重油など成分ごとに選別する作業が必要です。そこで石油元売では自社の製油所で精製を行い、それぞれの油種を消費者へ配送します。
石油元売において一般消費者に最も身近な存在が、ガソリンスタンドです。自動車社会である近代、ガソリンスタンドは石油元売として他に替えられない存在となっています。
石油輸送
石油輸送を専門に扱う企業も存在します。石油は液状の危険物であり、輸送には特殊なノウハウが必要です。そのため一般の輸送業者ではなく、石油に特化した企業が輸送を担当します。
輸送にあたっては、以下の手段を用います。
- 石油タンカー
- 鉄道タンク車
- タンクローリー
このような手段を使い分けて、産油国から日本各地への効率的な配送を実現しています。
石油備蓄
石油の備蓄基地を運営する企業もあります。石油は、生活に欠かせない重要なエネルギー源です。そのため法令によって、国内での貯蔵が義務付けられています。日本各地に石油の備蓄基地が整備されており、この備蓄基地を管理する専門の会社が存在します。
エネルギー商社
エネルギー商社は自社の製油所を持たず、石油元売の窓口として機能します。エネルギー商社の取引先は、主に法人などの大口顧客です。工場や事業所などの大口需要家に対して営業活動を行い、契約を取りまとめます。
石油業界が扱う製品ジャンル
石油業界の収益源は、ガソリンだけではありません。原油の精製によって得られる副産物は、多種多様です。
そこで石油業界では、さまざまな化学物質を用いて幅広い分野で事業化をしています。ここでは、石油業界が取り扱う代表的な製品ジャンルを紹介します。
燃料油
石油業界における主力製品が、ガソリンなどの燃料油です。以下のように、用途に合わせてさまざまな油種を販売しています。
- ガソリン・軽油:自動車の燃料
- 重油:大型船舶やボイラー、発電機の燃料
- ケロシン:航空機の燃料や灯油
潤滑油・グリース
原油の精製過程で副産物として得られる鉱物油も、石油業界の重要な収益源です。鉱物油には、以下の用途があります。
- 工業用潤滑油
- エンジンオイル
- グリース
石油業界では鉱物油を製品化して、潤滑油やグリースとして販売しています。
産業用エネルギー
石油業界は、産業用エネルギーも扱っています。
油田や製油所では、原油を扱う工程で天然ガスが発生します。この天然ガスは可燃性であり、プロパンガスへの活用が可能です。石油業界では副産物として得られる天然ガスを利用し、ガスの供給網を支えています。
発電・電力販売
発電や電力販売事業も、石油業界を支える収益源です。
石油業界では、石油や天然ガスを活用した火力発電を行っています。また火力発電に加えて、太陽光発電やバイオマス発電などのクリーンエネルギー分野にも力を入れ始めました。
近年では電力小売の自由化が実現したため、家庭向け電力の販売事業も本格化しています。
石油化学誘導品
原油には、さまざまな化学物質が含まれています。代表的な例が、以下の化学物質です。
- トルエン:塗料や接着剤の原料
- エチレン:レジ袋の原料
- ブタジエン:合成ゴムの原料
これらの化学物質を「石油化学誘導品」と呼びます。石油業界では化学物質を成分ごとに抽出し、石油化学誘導品として化学メーカーや製薬メーカーへ販売しています。
石油業界の代表的な企業
石油業界の代表的な企業と、その売上高をまとめました。
企業名 | 売上高 |
ENEOSホールディングス株式会社 | 109,218億円(※1) |
出光興産株式会社 | 66,867億円(※2) |
コスモエネルギーホールディングス株式会社 | 24,404億円(※3) |
株式会社INPEX | 12,443億円(※4) |
伊藤忠エネクス株式会社 | 9,363億円(※5) |
富士石油株式会社 | 4,853億円(※6) |
シナネンホールディングス株式会社 | 2,890億円(※7) |
石油資源開発株式会社 | 2,491億円(※8) |
三井石油開発株式会社 | 729億円(※9) |
日本石油輸送株式会社 | 342億円(※10) |
※1出典:ENEOSホールディングス株式会社「セグメント情報」
※2出典:出光興産株式会社「業績ハイライト(連結)」
※3出典:コスモエネルギーホールディングス株式会社「2022年3月期 決算短信」
※4出典:株式会社INPEX「決算ハイライト」
※5出典:伊藤忠エネクス株式会社「2022年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」
※6出典:富士石油株式会社「財務ハイライト(連結)」
※7出典:シナネンホールディングス株式会社「業績ハイライト」
※8出典:石油資源開発株式会社「2022年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」
※9出典:三井石油開発株式会社「第53期決算概要」
※10出典:日本石油輸送株式会社「財務ハイライト」
石油企業の経営には巨大な資本を要するため、大手企業が名を連ねています。かつては数多くの石油元売りが存在したものの、経営統合によって業界の再編が進みました。
石油業界の職種別の仕事内容
石油が消費者の元に届けられるまでには、採掘や海上輸送など長い道のりを経ます。そのため数多くの人が携わっており、仕事の種類も豊富です。
油田探鉱・開発の場合
石油業界では、油田の探査や新規開発を担う仕事があります。具体的な業務内容は、以下の通りです。
- 油田の掘削・調査
- 権益を得るための産油国との交渉
- 掘削リグ(井戸)の建設
油田の新規開発は、数十年にも及ぶ巨大なプロジェクトです。また投資金額も巨額で、スケールの大きな業務に携われます。
加えて、ほとんどの石油資源は中東地域などに分布しているため、海外を舞台に活躍できる職種です。
製造の場合
製造は、石油精製プラントを操業して原油の精製を行う仕事です。操業の現場には、以下の2種類のオペレーターが従事しています。
- フィールドオペレーター:石油精製プラント内で機器の点検、操作を行う
- ボードマン:中央制御室で計器を監視し、操業の指揮を執る
製油所は、24時間365日休まず稼働しています。そのためオペレーターの勤務体制は、交代勤務です。
またオペレーターの他に、製造部門では操業計画を組むスタッフや技術アドバイザーが日勤で働いています。
設備管理の場合
設備管理は、石油精製プラントの保守・修理を行う仕事です。生産設備のトラブルを未然に防ぐために、機器のメンテナンスを担当します。
石油精製プラントでは、数年に一度だけ実施される大規模メンテナンス「定期修理」が存在します。この定期修理は、数か月間に及ぶほどの一大行事です。定期修理にあたって、設備管理が主体となり工事の取りまとめ役を担います。
HSEの場合
HSEとは、従業員の衛生(health)や安全(safety)、環境(environment)を守る業務です。石油は危険物であり、扱い方を誤ると火災・爆発に至ります。そこで石油業界では事故を未然に防止するために、安全管理の専門部署を設けています。
営業の場合
営業の仕事は、会社の窓口としての顧客対応です。営業は理系出身者だけでなく、文系の社員も数多く活躍しています。石油業界において、営業の仕事は以下の2種類に分類できます。
法人営業
法人営業は、主に工場や大型施設に対してエネルギー供給の提案を行う仕事です。エネルギー以外にも、石油誘導品や工業用潤滑油を扱う部門では法人営業が存在します。法人営業では一件あたりの受注で巨額の金額が動くため、スケールの大きさが魅力です。
個人営業
個人営業の代表格は、街のガソリンスタンドです。個人営業では燃料の販売だけでなく、車検やクレジットカードなどのサービスを企画・提案して収益増加を図っています。
なお、営業に興味がある方は、「営業職とは何か説明!種類や仕事内容、向いている人の特徴や年収 」の紹介記事も読んでみてください。
石油業界の年収や給料
石油業界の平均年収と、全業界の平均年収を比較しました。
業界 | 平均年収 |
石油業界(ガラス・化学・石油) | 474万円(※1) |
全業界 | 433.1万円(※2) |
※1出典:マイナビ転職「2022年版 業種別モデル年収平均ランキング」
※2出典:国税庁「民間給与実態統計調査」
石油業界は大手企業の割合が多いため、平均年収が全業界平均よりも高くなっています。特に製油所に勤務する製造職種は、夜勤手当や交代勤務手当が上乗せされるため年収も高額です。
石油業界の現状の課題
脱炭素化の風潮が強まり、石油業界に対する風当たりは強さを増しています。実際に電気自動車や再生可能エネルギーへの転換が進んでおり、石油業界は重大な岐路に直面しています。
製油所の統廃合
日本国内では、製油所の統廃合による業界再編が進んでいます。統廃合の要因は、石油需要の減少と設備の老朽化です。
人口減少に加え、エコカーの普及によってガソリン需要は右肩下がりの状況です。加えて電気自動車の登場により、今後も石油の消費量は減少し続けると予想されています。
製油所の老朽化も追い打ちをかけており、さらなる業界再編が進む可能性も否定できません。
脱炭素に向けた風潮の高まり
近年では、脱炭素の風潮が一段と高まってきました。
電気自動車へのシフトや脱プラスチックなど、石油業界にとって過去に例を見ないほどの転換点を迎えています。そのため従来の石油事業だけでは立ち行かない状況です。
石油業界に対する投資も集まりにくくなっており、石油依存からの脱却が急務です。
石油業界の今後の動向・将来性
石油業界では、石油に依存しない新たなビジネスへの転換を図っています。脱炭素社会に適応するため、生き残りをかけた急速な事業改革が進行中です。
クリーンエネルギーの促進
石油業界では、クリーンエネルギーの開発に力を入れています。具体的には水素やバイオマスなど、二酸化炭素を排出しないエネルギー源を模索中です。
他にも風力や地熱など、石油火力発電以外の発電所を積極的に建設しています。
ガソリンスタンドの多角化
石油業界では、ガソリンスタンドを住民サービスの拠点にする構想が進んでいます。それが日常生活におけるさまざまなサービスを提供する「次世代型ガソリンスタンド」です。
次世代型ガソリンスタンドで提供するサービスの一例には、次のようなものがあります。
- 車販売やシェアリング・レンタル拠点
- 自動車整備
- リサイクル品等の⼀時集積拠点
- 地域の物産販売
- 観光サービスの提供
ガソリンスタンドの廃業が続いている中、上記のようなサービスで活路を模索しています。