人材サービス業界とは?
人材サービス業界とは、「働きたい」という人と「人を雇いたい」という企業をマッチングさせる業界です。人材紹介だけでなく、人材の派遣や求人広告、コンサルティングなど幅広い業務があります。
「人生100年時代」と言われ終身雇用が崩壊すると言われている昨今、人材サービス業界の果たす役割は、これからますます大きくなっていくでしょう。
人材サービス業界の2021〜2022年における市場規模・成長率・利益率は以下のとおりです。
業界市場規模 | 5.6兆円 |
成長率 | 6.3% |
利益率 | 4.5% |
出典:業界動向SEARCH.COM「人材サービス業界」
人材サービス業界は市場規模も大きく、成長率や利益率も比較的安定しています。
国内では少子高齢化が進み、若年層の労働人口は減少している状況です。そのため人材サービス業界の需要は伸びて、今後も安定した利益率が確保できることが推測されます。
人材サービス業界の代表的な企業
人材サービス業界の代表的な企業と、その売上高を以下にまとめます。
企業名 | 売上高 |
リクルートHD | 13,618億円(※1) |
パーソルHD | 10,608億円(※2) |
アウトソーシング | 5,693億円(※3) |
パソナグループ | 3,660億円(※4) |
テクノプロ・HD | 1,787億円(※5) |
UTグループ | 1,567億円(※6) |
夢真ビーネックスグループ | 1,566億円(※7) |
ワールドHD | 1,547億円(※8) |
ウィルグループ | 1,310億円(※9) |
※1 出典:株式会社リクルートHD「有価証券報告書」
※2 出典:パーソルHD株式会社「有価証券報告書」
※3 出典:株式会社アウトソーシング「有価証券報告書」
※4 出典:株式会社パソナグループ「有価証券報告書」
※5 出典:テクノプロ・HD株式会社「有価証券報告書」
※6 出典:UTグループ株式会社「有価証券報告書」
※7 出典:株式会社ビーネックスグループ「有価証券報告書」
※8 出典:ワールドHD「有価証券報告書」
※9 出典:株式会社ウィルグループ「有価証券報告書」
売上高トップは、リクルートHDでした。リクルートHDと次点のパーソルHDは、他の競合と大きく差をつけていることがうかがえます。
リクルートHDは、「Indeed」や「Glassdoor」などを展開するHRテクノロジー事業が急成長している点が好調要因です。仕事探しと求人広告両方の機能を併せ持ったサービスを数多く展開し、求職者と企業双方のサポート体制が整っています。
またパーソルHDは、求人サービス「doda」の知名度が高く、2021年12月末時点で約665万人(※1)の利用がある点が好調要因です。また正社員転換に注力している企業であるため、派遣単価が高いことも大きな理由と言えるでしょう。
※1 参考:doda「会員登録者数推移」
人材サービス業界の職種別の仕事内容
人材サービス業界について、職種別に仕事内容を紹介します。
営業
営業は企業へ向けて、人材派遣に関連する企画やコンサルティングをする業務です。企業によっては「リクルーティングアドバイザー」と呼ばれることもあります。
メーカーや保険と同じように新規開拓営業とルート営業の2種類があります。他業界の営業と違う点は、商品やサービスを売る営業ではないという点です。人材不足を課題にする企業を訪問して「どのような人材が必要なのか」を詳しくヒアリングします。
自社の魅力をPRするというよりは、取引先の課題解決のための提案をするコンサルティング的な要素を持っているのが特徴です。
営業に興味がある方は、「営業職とは何か説明!種類や仕事内容、向いている人の特徴や年収」も読んでみてください。
コーディネーター
コーディネーターは、仕事を探す求職者と人材を探している企業の間を取り持ち、マッチングをさせるのが仕事です。企業によっては「転職アドバイザー」「キャリアアドバイザー」「キャリアコンサルタント」のような呼び方をされています。
求職者と企業の双方の希望条件を調査した上でマッチングするため、高いリサーチ力や分析力が求められます。双方どちらかの希望条件が十分に満たされていない場合は、納得いくまですり合わせをしなければならない難しさがある仕事です。
また求職者に対しては、希望する企業から採用を得られるまで一貫したサポートを行います。
カウンセラー
カウンセラーは、派遣スタッフのサポートをする仕事です。
相談者の不安や悩みの原因を見つけだし、派遣先で安心して仕事ができるようにメンタル面をケアします。相手が話しやすい雰囲気づくりやしっかりと話を聞く傾聴力が必要とされるポジションです。
スタッフサポート
スタッフサポートは、派遣スタッフのキャリアアップを支援する仕事です。
具体的な支援には、教育や研修、セミナーの実施などがあります。派遣スタッフが目指すキャリアに沿ったカリキュラムを考えながら、現場で役立つスキルが身につくようサポートに回ります。
人材サービス業界の年収や給料
人材サービス業界の平均年収と、全業界の平均年収を比較してみましょう。ここでは人材サービス業界の年収例として、人材コーディネーターの平均年収を紹介します。
業界 | 平均年収 |
人材コーディネーター | 378万円(※1) |
全業界 | 433.1万円(※2) |
※1 出典:求人ボックス 給料ナビ「人材コーディネーターの仕事の年収・時給・給料」
※2 出典:国税庁「民間給与実態統計調査」
人材サービス業界の平均年収は、全業界に比べると約50万円下回っています。
その理由としては、一人あたりの成約単価が低い点が考えられます。また一人一人に寄り添うスタイルをとる企業の場合、効率的に利益回収が見込めないという理由もあるでしょう。
しかしながら年収は、企業規模のほか勤続年数やポジションによっても変動します。仕事で成果を出すことができれば、全業界の平均年収以上の額を得ることも可能です。
人材サービス業界の現状の課題
人材サービス業界の今後の動向・将来性について見ていきます。
労働人口の減少
一つ目が、少子高齢化の影響により労働人口が減少しているという課題です。労働人口が減ってしまった分、仕事先を探す人の数も比例して少なくなるため、業界にとっては向かい風が吹いています。
今後人材サービス業界は、いかに若年層の労働者を確保して企業とマッチングさせられるかどうかが課題となってくるでしょう。
「同一労働同一賃金」など法改正による利益率の低下
人材サービス業界は、2020年4月に制定された「同一労働同一賃金」によって利益率が低下しているという課題があります。
「同一労働同一賃金」とは、同じ労働内容である場合、雇用形態に関係なく同じ賃金にするという制度です。つまり、正社員や派遣社員という雇用形態の違いがあっても、同じ仕事をするのであれば賃金差は原則生まれないということです。
非正規雇用労働者のモチベーションアップにつながる制度である一方、非正規雇用労働者の離職率が減少すれば、人材サービスを利用する人の割合も減少する可能性があります。
人材サービス業界の今後の動向・将来性
人材サービス業界の今後の動向・将来性について見ていきます。
シニア向け人材の活用が進む
人材業界では、若年層だけでなくシニア層にも活躍してもらおうという動きがあります。勤労意欲のあるシニア層が活躍すれば、今後減少するであろう労働人口を穴埋めできるからです。
清掃員や交通誘導、販売などシニアが活躍できる仕事は数多くあります。そのような職種を扱う企業へ積極的に働きかけ、雇用を生み出せるかどうかが、人材サービス業界が生き残るカギとなるでしょう。
業界に特化したサービス展開が続く
人材サービス業界は、業界に特化したサービス展開が続いていくと見られています。
特化型の人材サービスであれば、競争が激化する中でも競合他社と差別化が図りやすいからです。また専門的な知識を身につけたコンサルタントを配置することで、企業から大きな信頼が得られるというメリットもあります。
近年は金融やIT、医療だけでなく、シニア人材専門のエージェントや農業を専門とするエージェントも出てきました。市場を拡大させるため、これらの新しい分野に着手する企業が増加しています。
正社員不足により需要が高まっている
人材サービス業界は、正社員不足により需要が高まっています。
東京商工リサーチが2023年に実施した「2023年 企業の「人手不足」に関するアンケート調査」では、大企業の73%が正社員不足に悩まされているとのことです。
そのため「人材サービスを利用して正社員を雇用したい」という企業が増加しています。この流れは、業界にとって大きな利益を確保するチャンスです。
「正社員が不足している」という国の課題が、人材サービス業界にとっては追い風となっているとも考えられ、将来性は十分にあると言えるでしょう。