ホテル業界とは?
ホテル業界とは宿泊サービスを中心に、料理・ドリンクの提供から宴会・結婚式の実施まで、ホテルを通じてさまざまなサービスを展開する業界です。
ホテル業界と一口に言ってもそのサービス形態は幅広く、立地や主な客層によって以下のタイプに分けられます。
種類 | 立地 | 主な客層 | 特徴 |
ビジネスホテル |
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リゾートホテル |
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アーバンリゾート ホテル |
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シティホテル |
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「自分がどんな立地で働きたいのか」「どんなお客様におもてなしをしたいのか」によって、仕事環境は大きく変わると言えます。
2021年における市場規模や成長率・利益率は以下の通りです。
業界市場規模 | 0.8兆円(129位/190業界) |
成長率 | -15.7%(184位/190業界) |
利益率 | -35.6%(186位/190業界) |
出典:業界動向SEARCH.COM「ホテル業界」
ホテル業界の魅力
豪華で洗練された館内や丁寧で思いやりあふれた接客は、ホテル業界だからこそ提供できるものです。
ここからは、ホテル業界の魅力を紹介します。
清潔で快適な仕事環境で働ける
華やかなホテルの内装や意匠を凝らした空間は、ホテル業界が最も力を入れているサービスの一つです。
館内はお客様のために隅々まで磨かれ、徹底して清潔に保たれています。その憧れの空間で仕事ができるのは、ホテルマンだからこそと言えます。
一流の接客マナーを習得できる
最高のサービス提供を目指すホテル業界では、接客マナーを基礎から徹底的に教え込まれます。
一流の接客マナーを身につけるのは簡単ではないものの、ホテルマンとしての仕事に役立つほか、日常生活でも自然に相手に寄り添った言動ができるようになります。ホテル業界出身としてのブランドも加わって、将来接遇やマナー講師としての活躍も期待十分です。
直接お客様から感謝の言葉をもらえる
ホテル業界で働く魅力として、直接お客様から感謝の言葉をもらえることが挙げられます。
お客様への心からのおもてなしを志すホテルマンにとって、お客様から言葉をかけられるときほどやりがいを感じられる瞬間はありません。自分の努力の成果がお客様の反応を通じてダイレクトに返ってくるのも、ホテル業界で働く魅力と言えます。
職種によっては年間休日が多い
ホテル業界の魅力の一つに、職種によっては年間170日以上休めることが挙げられます。
完全週休二日制の企業でも、祝日を含めた年間休日は121日しかありません。170日はそれを49日も上回る休日の多さです。
年間170日以上休める理由は、職種によっては「1勤3休制」が取り入れられているためです。
「1勤3休制」とは、25時間勤務(休憩・仮眠含む)後に3日間休みがもらえる働き方を指します。勤務する時間は長いものの4日に一度しか勤務日がなく、休みを思いっきり楽しみたい人や趣味を充実させたい人に向いています。
ホテル業界の代表的な企業
ここでは、ホテル業界の中でも特に売上高が大きい大手企業を紹介します。
企業名 | 売上高 |
リゾートトラスト株式会社 | 1,675億円(※1) |
ルートインジャパン株式会社 | 936億円(※2) |
株式会社西武ホールディングス | 809億円(※3) |
株式会社共立メンテナンス | 461億円(※4) |
株式会社東横イン | 429億円(※5) |
東急株式会社 | 376億円(※6) |
三井不動産株式会社 | 327億円(※7) |
株式会社ホテルオークラ | 315億円(※8) |
株式会社ニュー・オータニ | 301億円(※9) |
株式会社オリエンタルランド | 286億円(※10) |
※1 出典:リゾートトラスト株式会社「有価証券報告書」
※2 出典:ルートインジャパン株式会社「会社概要」
※3 出典:株式会社西部ホールディングス「有価証券報告書」
※4 出典:株式会社共立メンテナンス「有価証券報告書」
※5 出典:株式会社東横イン「有価証券報告書」
※6 出典:東急株式会社「有価証券報告書」
※7 出典: 三井不動産株式会社「有価証券報告書」
※8 出典: 株式会社ホテルオークラ「有価証券報告書」
※9 出典:株式会社ニュー・オータニ「有価証券報告書」
※10 出典:株式会社オリエンタルランド「有価証券報告書」
日本のホテル業界の中で最も売上高が大きいのは、1位のリゾートトラスト株式会社で上位10社のうち28%のシェアを占めます。
2位・3位に追随するのが、ルートインジャパン株式会社・株式会社西部ホールディングスです。この2社が16%、14%のシェアを占めています。一方、4位の共立メンテナンス以降はシェアが10%未満であり、売上高にそれほど大きな違いは見られません。
ホテル業界の職種・仕事内容
宿泊や飲食・宴会・結婚式などさまざまなサービスを提供するホテル業界の仕事は、次に紹介する5つの部門で管理され、幅広い職種の人が働いています。
- 宿泊部門
- 料飲部門
- 調理部門
- 宴会部門
- 管理・営業部門
ここからは、各部門における職種や仕事内容を具体的に紹介していきます。
宿泊部門の場合
宿泊部門は、ホテルのメインとなる宿泊サービスを提供する部門です。宿泊サービスには、予約受付からチェックイン・チェックアウトまでさまざまな仕事があり、以下の職種の人が担当します。
- フロント
- コンシェルジュ
- ハウスキーピング(客室係)
- ベルパーソン・ベルアテンダント
- ドアマン・ドアアテンダント
フロント
フロントは、受付において宿泊予約の受付やチェックイン・チェックアウト手続き、会計などを担当します。ホテル業界の職種の中では、一番身近でイメージしやすい職種です。
コンシェルジュ
コンシェルジュは、お客様の質問や要望に応えるために配置された案内役です。コンシェルジュの仕事は、レストランの予約から各種チケットの手配、観光地案内まで幅広いことが特徴です。
ハウスキーピング(客室係)
ハウスキーピング(客室係)は、客室の清掃やベッドメイキング、備品の補充を担当します。客室を清潔に保ち、お客様に居心地の良い空間を提供するのが役割です。
ベルパーソン(ベルアテンダント)
ベルパーソン・ベルアテンダントは、お客様の荷物を持って部屋まで案内するのが役割です。頻繁にフロント周辺やロビーを行き来するため、困っているお客様のサポートをすることも求められます。
ドアマン(ドアアテンダント)
ドアマン・ドアアテンダントは、車やホテルのドアを開け閉めして、お客様を誘導するのが役割です。
天候によっては傘を差し出したり、雪かきをしたりもします。ホテルで一番初めに出会う従業員となるため、ホテルの顔としての対応が求められます。
料飲部門の場合
料飲(りょういん)部門は、ホテル内のレストランなどで料理やドリンクを提供したり、客室へルームサービスを運んだりする部門です。
料飲部門の仕事には、以下の職種があります。
- レシェプショニスト
- ウェイター・ウェイトレス
- バーテンダー
- ソムリエ
- ルームサービス
レシェプショニスト
レシェプショニストは、ホテルのレストランの入口で、予約受付や座席の案内・会計をするのが役割です。
お客様がレストランで初めて接するスタッフであることから、レストランの顔としての対応が求められます。
ウェイター・ウェイトレス
ウェイター・ウェイトレスは、ホテルのレストランでお客様の食事のサポートを担当します。
オーダーの聞き取り、料理やドリンクの提供が主な役割です。お客様から料理について質問される機会も多く、食材や調理法に関する知識も求められます。
バーテンダー
バーテンダーは、ホテル内のバーでお客様のオーダーに応じてカクテルなどの酒類を提供するのが仕事です。お酒を作る技術も大事ですが、会話でお客様を楽しませる能力も求められます。
ソムリエ
ソムリエは、ホテルのレストランで料理やお客様の好みに合うワインを選んで提供するのが仕事です。ワインに精通しているだけでなく、お客様のニーズを引き出す会話技術も求められます。
レストランのメニューに合ったワインリストを作ったり、品質が落ちないようにワインを管理したりするのも、ソムリエの仕事の一つです。
ルームサービス
ルームサービスは、ホテルの客室に料理や飲み物を運ぶのが仕事です。
ホテルの中には、料理を運ぶサービスに加え、テーブルセッティングをしておもてなしを演出する施設もあります。食事が済んだ後の片付けも仕事の一つで、狭い空間でテキパキと作業することが求められます。
調理部門の場合
調理部門は、ホテルが提供する料理の調理を専門に担当する部門です。
調理部門の仕事には、以下の職種があります。
- シェフ
- ブッチャー
- ベーカリー
- パティシエ(ペストリー)
- ガテマンジャー
シェフ
シェフは、ホテルのレストランでコックを統率する調理責任者です。シェフの担当範囲は広く、食材の仕入れからメニューの考案、味付けの確認やスタッフ管理まで任されます。
ブッチャー
ブッチャーは、ホテルのレストランで肉の下処理を専門に扱う職種です。
素材やカット方法で味が大きく変わる肉料理では、ブッチャーの専門知識や高い技術力が欠かせません。ブッチャーは肉の仕入れからカット、管理まで肉の下処理全般を担当します。
ベーカリー
ベーカリーは、ホテルのレストランでパンを焼き上げる専門職です。
焼きたてのパンをウリにするホテルも多く、ベーカリーはバターの仕入れから、仕込み・形成・焼きの工程までパンの製造全般に関わります。
パティシエ(ペストリー)
パティシエ(ペストリー)は、ホテルのレストランでデザートを作る専門職です。
パティシエが作るデザートは、結婚式やビュッフェなどで提供されます。パティシエはデザートの製造の他、盛り付けやメニュー考案まで担当します。
ガテマンジャー
ガテマンジャーは、ホテルのレストランで冷製料理を担当する専門職です。
ホテルで提供される冷製料理にはサラダやガスパチョ、パテ・マリネなどがあり、宴会料理やコース料理でよく使われます。
宴会部門の場合
宴会部門は、ホテル内で行われる宴会や結婚式の手配を担当する部署です。
宴会部門の仕事には、以下の職種があります。
- 宴会予約
- 宴会サービス(バンケット)
- クローク
宴会予約
宴会予約は、結婚披露宴や宴会などの予約を専門に担当する仕事です。
宴会場の数には限りがあるため、お客様の要望を聞きつつも無駄なく宴席場を埋めなければなりません。宴会場のレイアウトや料理の種類、進行を決定するのも、宴会予約の仕事です。
宴会サービス(バンケット)
宴会サービス(バンケット)は、主催者とともに宴会のサポートをするのが仕事です。具体的には、会場のセッティングをしたり、料理やドリンクを運んだりします。
結婚披露宴など人生の特別な日に関わることも多く、高いクオリティーのサービスが求められます。
クローク
クロークは、ホテルの入口や宴会場近くに滞在し、開催される宴会や結婚式に参加するお客様の荷物を預かる仕事です。
取り間違いや紛失は許されないため、お客様の大切な荷物を預かるクロークはホテルの信用に関わる重要任務です。
営業・管理部門の場合
営業・管理部門には、宴会や客室の販売を手がける営業部門と、人事や総務・経理など経営管理を担当する管理部門があります。
営業・管理部門の仕事は、以下の通りです。
- 営業
- 企画
- 人事
- 広報
営業
営業は、ホテルが提供する宿泊・宴会・レストランなどのサービスを販売する仕事です。
販売する対象は主に旅行会社などの法人で、限定サービスが付いた宿泊プランを提案したり、ツアーに自社ホテルを組み込んでもらう交渉をしたりします。
営業職に興味がある方は、「営業職とは何か説明!種類や仕事内容、向いている人の特徴や年収」も読んでみてください。
企画
企画は、数多くのホテルから自社ホテルを選んでもらうための企画を考える仕事です。
具体的には、「秋の味覚フェア」や「クリスマス・ディナーショー」など、お客様がホテルに足を運びたいと思わせる魅力的な企画を練ります。企画の成功はホテルの売上に関わるため、実力が問われるシビアな仕事です。
人事
人事は、ホテル経営を人材面から支える仕事です。
具体的には、ホテルの理念に合った人材を採用し、教育や人員配置等を通じてホテルの成長に貢献します。
広報
広報は、テレビや雑誌、インターネットなどの媒体を通じてホテルの魅力を伝える仕事です。
具体的には、ホームページやSNSを通じた情報発信や、テレビなどの取材を受けることが挙げられます。
ホテル業界の年収や給料
ホテル業界の平均年収と、全業界の平均年収を比較してみましょう。
業界 | 平均年収 |
ホテル業界 | 324万円(※1) |
全業界 | 433.1万円(※2) |
※1 出典:doda「96業種別の平均年収ランキング|ホテル・旅館・宿泊施設」
※2 出典:国税庁「民間給与実態統計調査」
ホテル業界の平均年収は324万円であり、全業界の433万円と比較すると100万円程度低い金額です。
ホテル業界の年収がやや低い金額なのは、ホテル業界の 事業が景気に左右されやすいからだと考えられます。
景気が良いと旅行者の増加によりホテルの売上向上が期待できますが、景気が悪いと人々は消費を控えるようになり、ホテルの売上は下がります。
また、夜勤や残業時間の多さによっても、実際に働く際の年収は変わると言えるでしょう。
ホテル業界の現状の課題
ホテル業界における現状の課題として、以下の2つが挙げられます。
- 各国の渡航制限による訪日外国人の減少
- 外出自粛による国内需要の鈍化
各国の渡航制限による訪日外国人の減少
ホテル業界の現状の課題として、各国の渡航制限による訪日外国人の減少が挙げられます。
元々ホテル業界は2020年まで、訪日外国人の増加や東京オリンピック開催に向け、新設ラッシュに沸いていました。在日外国人増加の背景には、「観光先進国」を目指す日本政府の訪日プロモーションがあります。
しかし2020年以降、新型コロナウイルス感染症の拡大により世界情勢が一変しました。渡航制限を実施する国が増え、在日外国人の減少によってホテル業界は大きな打撃を受けています。
観光庁の「宿泊旅行統計調査」によると、2020年の宿泊数は前年から48.9%減の3億480万人泊(宿泊人数×宿泊数)に留まっており、その影響の大きさがうかがえます。
外出自粛による国内需要の伸び悩み
訪日外国人からの売上が期待できなくなったホテル業界は、その分を国内需要で埋め合わせる必要性に迫られました。
しかし、感染拡大への危惧から外出自粛要請が度々出され、国内需要を十分に伸ばすことはできませんでした。国内需要喚起のために政府が実施した「Go To トラベル」キャンペーンも、2020年12月の感染拡大により中止となり、その効果は限定的なものに留まっています。
ホテル業界の今後の動向・将来性
厳しい状況が続くホテル業界ですが、今後回復する見込みはあるのでしょうか。ホテル業界の今後の動向・将来性を紹介します。
入国規制緩和への期待
ホテル業界が再び盛り上がるには、訪日外国人の増加が欠かせません。
2021年以降、新型コロナワクチンの供給量が安定してきた背景から、ワクチン証明書を所持する外国人に入国許可を認める施策が政府によって検討されています。
訪日外国人数が元の水準に戻るのはまだ先ですが、入国規制緩和によって徐々に訪日外国人が増えていくことが期待されます。
GoToトラベル事業の再開
新型コロナウイルス流行が収束の兆しを見せれば、GoToトラベル事業を再開して国内需要を増やすことができるでしょう。
日本国内で着々とワクチン接種も進んでいる現状を踏まえれば、これまで外出を控えていた人々によるホテル利用が期待されます。
ワーケーションによる需要の掘り起こし
新型コロナウイルス拡大をきっかけにリモートワークが広がったことから、新しい働き方のスタイルとして「ワーケーション」が注目されています。
ワーケーションとはワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた用語で、リモートワークをしながらバケーションを楽しむ働き方です。
勤務地を選ばないリモートワークでは、観光地やリゾート地で仕事をすることができ、かつ休日は非日常空間で思いっきりプライベートを楽しめます。
2020年以降政府もワーケーションの普及を目指しており、ホテル業界に追い風が吹いていると言えます。
ロボット導入による経営の効率化
設備を活用してサービスを売り出すホテル業界では、サービスを提供するのに多くの人材が必要であり、人件費の高さが経営課題として挙げられていました。
そんな状況の中、経営の効率化を図るべくロボットを導入するホテルが増えています。例えば、ホテル内の清掃作業をロボットに置き換えたり、フロントを無人化して自動でチェックイン・アウトができる仕組みを導入したりする取り組みが行われています。
ホテルによるテイクアウトサービスの強化
訪日外国人の減少や国内需要が低下する中、ホテル業界では宿泊以外の需要喚起策として、テイクアウトサービスを強化する動きも出ています。
新型コロナウイルス感染拡大によって自宅で過ごす時間が増える中、ホテルが提供する本格的な料理を家で手軽に楽しんでもらう狙いがあります。