小売業界

小売業界とは?現状の課題や今後の動向・将来性とともに解説

小売業界とは?

小売業界とは、スーパーやコンビニ、ディスカウントストアに代表される、商品を最終消費者に販売する業界を示します。小売業界と一口に言ってもさまざまな種類があり、生活に関する幅広い商品を扱う総合スーパーや百貨店のほか、食品のみを扱う食品スーパー、衣類や生活雑貨のみを取り扱う専門店などがあります。

これら小売業界に共通しているのは、商品を販売する相手が一般の消費者であることです。

小売業界は、メーカーや卸売業者・商社から商品を安く仕入れ、利益を上乗せして消費者に販売することでビジネスを成り立たせています。

また、私たち消費者がいつでも必要な分だけ買い物できる背景には、小売業界による仕入れノウハウが大きく関係しています。そもそも小売業における「小売」とは、メーカーや卸売業が小売業に対して「最小単位に小分けした分量」で販売する意味です。消費者が余分な在庫を抱えずに買い物できるのは、小売業界のおかげとも言えるのです。

小売業界における2021年の市場規模や成長率・利益率は以下の通りです。

業界市場規模

60.1兆円(4位/190業界)

成長率

+1.4%(68位/190業界)

利益率

-4.0%(163位/190業界)

出典:業界動向SEARCH.COM「小売業界

小売業界は、生活におけるありとあらゆる商品を取り扱うだけに市場規模が大きく、国内にある190の業界の中でも4番目の規模を誇っています。

小売業界の代表的な企業

ここからは、小売業界の代表的な企業とその売上高を確認していきましょう。

企業名

売上高

イオン株式会社

86,039億円(※1)

株式会社セブン&アイ・ホールディングス

57,667億円(※2)

株式会社ファーストリテイリング

20,088億円(※3)

株式会社ヤマダホールディングス

17,525億円(※4)

株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス

17,086億円(※5)

ウエルシアホールディングス株式会社

9,496億円(※6)

株式会社ツルハホールディングス

9,193億円(※7)

株式会社ビックカメラ

8,479億円(※8)

三越伊勢丹ホールディングス

8,160億円(※9)

株式会社ケーズホールディングス

7,925億円(※10)

※1 出典:イオン株式会社「有価証券報告書
※2 出典:株式会社セブン&アイ・ホールディングス「有価証券報告書
※3 出典:株式会社ファーストリテイリング「有価証券報告書
※4 出典:株式会社ヤマダホールディングス「有価証券報告書
※5 出典:株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス「有価証券報告書
※6 出典:ウエルシアホールディングス株式会社「有価証券報告書
※7 出典:株式会社ツルハホールディングス「有価証券報告書
※8 出典:株式会社ビックカメラ「有価証券報告書
※9 出典:三越伊勢丹ホールディングス「有価証券報告書
※10 出典:株式会社ケーズホールディングス「有価証券報告書

日本の小売業界の中で最も売上高が高いのはイオン株式会社です。上位10社のうち14.3%のシェアを占めており、1年間に延べ12億人もの人々がイオンの店舗に足を運んでいます。

そして、2位・3位に追随するのが、株式会社セブン&アイ・ホールディングス(シェア9.6%)と株式会社ファーストリテイリング(シェア3.3%)です。

株式会社セブン&アイ・ホールディングスはコンビニエンスストア「セブンイレブン」でトップのシェアがあり、自社で開発したプライベートブランドが高く評価されています。

一方、株式会社ファーストリテイリングは衣料を扱う専門店で、「ユニクロ」や「ジーユー」などのブランドが有名です。日本だけでなく世界各国にも店舗を展開しており、商品開発から製造・販売まで手がける製造小売業の代表とも言える存在です。

小売業界の職種・仕事内容

消費者に対し生活に必要な商品を販売する小売業界には、さまざまな職種があります。小売業界における代表的な職種は以下の通りです。

  • 販売スタッフ
  • 店長
  • バイヤー
  • スーパーバイザー
  • ストアマネージャー
  • 商品開発
  • マーケティング
  • 物流管理
  • 人事・労務・法務などのサポート職

1つずつ順に解説していきます。

販売スタッフ

販売スタッフは小売業界の中でも一番身近な職種であり、来店客を商品の場所まで案内したり、商品選びの手伝いをしたりするのが仕事です。購入する商品が決まったら、レジでの会計も行います。

社会人としてのマナーが備わっているだけでなく、相手の要望に素早く回答できるだけの商品知識も求められます。

店長

店長は店舗の責任者であり、社員やパート、アルバイトを指示しながら店舗運営のすべてを取り仕切る役割です。仕事内容は、人材の管理から売上管理、商品管理まで多岐に渡ります。

社員からアルバイトまでさまざまな立場の人を指導・育成しなければならないため、コミュニケーション能力が問われます。入社後、販売スタッフとして一定年数の経験を積んだ後、主任などの管理職を経て店長に抜擢されるケースが多いです。

バイヤー

バイヤーは小売業の花形とも言われる職種で、商品の仕入れを一手に引き受けています。

バイヤーになるには売れる商品を見極める感度が必要であり、ライバル他社にはない魅力的な商品をいかに安く仕入れるかが勝負です。商品を有利に仕入れるには、メーカーや生産者への交渉力も問われます。

バイヤーは販売スタッフや店長などの管理職を経て任命されることが多いです。

バイヤーに興味がある方は、「バイヤーとは?どんな仕事内容か意味を簡単に解説!必要な資格、年収・給料は?」も読んでみてください。

スーパーバイザー

スーパーバイザーは複数の店舗を受け持つ責任者であり、販売状況や顧客データから店長やスタッフなどに店舗運営のアドバイスをするのが役割です。フランチャイズ経営をする小売業では、フランチャイズオーナーに指導することもあります。

スーパーバイザーは一般的には、店長を経て社内試験に合格した人が任命されるケースが多いです。

商品開発

商品開発は、ライバル他社にはないオリジナル商品を開発する職種です。メーカーと協力して開発するプライベートブランドのほか、製造小売業として小売業自ら手がける商品開発もあります。

消費者ニーズに合った商品開発をするには、自社に蓄積された販売データの分析に加え、常に流行をキャッチするアンテナの高さも必要とされます。

マーケティング

マーケティングは消費者の購入を促す仕掛けを考える職種です。

具体的には、イベントやキャンペーンの企画、商品の前に付けるPOPデザインの考案、チラシ作成などが挙げられます。時には、テレビCMやネット広告を通じて大々的に宣伝を行うこともあります。

物流管理

物流管理は、商品を仕入れてから販売するまでのルートや在庫量を管理する職種です。

店舗においては、在庫が多すぎると管理コストが増え、逆に少なすぎると在庫切れによる売上ロスにつながります。そのため、適切なタイミングで適切な在庫を仕入れることが大切になるのです。

最近では実在店舗に加えネット通販も手がける企業が増え、在庫管理が複雑化しています。

消費者を待たせることなく適切なタイミングで商品を届けるためにも、物流管理の重要性は増しています。

人事・労務・法務などのサポート職

小売業界には店舗運営に直接関わる職種以外に、店舗で働く人をサポートする職種があります。それが、人事・労務・法務と呼ばれる職種です。

職種

役割

人事

人材のスペシャリストであり、人材採用や人材教育を通じて店舗運営を支える。

労務

労働に関する事務処理を扱う職種であり、給料計算や勤怠管理などを一手に引き受ける。

法務

法律の専門家であり、法律に関するトラブルを未然に防いだり、早期解決に導いたりするのが役割。

人事に興味がある方は、「人事とは?仕事内容や年収・給料を簡単にわかりやすく解説 」も読んでみてください。

小売業界の年収

小売業界の年収

小売業界の業種別における平均年収と、全業界の平均年収を比較してみましょう。

業種

平均年収

コンビニエンスストア

391万円(※1)

食品スーパー

356万円(※2)

量販店・ホームセンター

352万円(※3)

ドラッグストア

348万円(※4)

小売専門店

340万円(※5)

百貨店

332万円(※6)

全業界

433.1万円(※7)

※1 出典:doda「96業種別の平均年収ランキング|小売業界
※2 出典:doda「96業種別の平均年収ランキング|小売業界
※3 出典:doda「96業種別の平均年収ランキング|小売業界
※4 出典:doda「96業種別の平均年収ランキング|小売業界
※5 出典:doda「96業種別の平均年収ランキング|小売業界
※6 出典:doda「96業種別の平均年収ランキング|小売業界
※7 出典:国税庁「民間給与実態統計調査」 

小売業界の業種の中では、コンビニエンスストアが391万円と最も平均年収が高いです。しかし、全業界の433.1万円と比較すると42万円程度低く、全体的に見ても小売業界は高年収と言えません。

しかし、同じ小売業界でも業種や会社規模、ポジションによって年収には大きな差があり、業種の選び方や今後の出世次第で年収は大きく変わるでしょう。

小売業界の現状の課題

小売業界が抱える現状の課題として、以下の3つが挙げられます。

  • 新型コロナウイルス感染拡大による訪日外国人需要の減少
  • 外出自粛による国内需要の減少
  • 営業時間の長さによる人手不足

新型コロナウイルス感染拡大による訪日外国人需要の減少

2020年の小売業界は、新型コロナウイルス感染症の流行により明暗が別れる1年となりました。特に影響を受けたのは、在日外国人需要の依存割合が大きい百貨店業界です。

2020年以降は入国制限によって訪日外国人需要は激減し、ギフトや高級品など訪日外国人の取り込みに注力してきた百貨店業界は打撃を受けることとなりました。

日本百貨店協会が公表した「2020年全国百貨店売上高速報」によると、前年より25.7%の減少傾向が見られ、百貨店に厳しい向かい風が吹いていることがわかります。

外出自粛による国内需要の減少

新型コロナウイルス感染症の流行は、国内需要にも影響を与えています。

日本フランチャイズチェーン協会が公表した「2020年コンビニエンスストア統計調査年間集計」によると、2020年のコンビニエンスストアにおける売上高は、前年より4.5%少ない10兆6,608億円に留まりました。

売り上げ減少の要因として、外出自粛やリモートワークによって来客数が減ったことが考えられます。

また、国内需要の中で特に影響が大きかったのは、季節向けの衣料品への影響です。

日本チェーンストア協会による「2020年チェーンストア販売統計四半期別集計表」によると、衣料品の販売額は2019年から2020年にかけて16.9%減となっており、衣料分野が苦戦を強いられているのがわかります。

営業時間の長さによる人手不足

小売業界の中にはコンビニエンスストアのように24時間体制で営業する業種もあり、少子高齢化による人手不足が問題になっています。

加盟店の判断で時短営業ができるコンビニもある一方、時短営業に本部の合意が必要なコンビニもあり、時短営業に対する対応は各社で異なります。

小売業界の今後の動向・将来性

訪日外国人の減少や外出自粛による国内需要の伸び悩みに直面する小売業界は、今後はどうなっていくのでしょうか。ここからは、現在小売業界で行われている新たな取り組みを5つ紹介します。

  • プライベートブランドの強化
  • 商品開発から製造・販売まで一貫して手がける製造小売業の躍進
  • 超高齢化社会に向けたネット通販・デリバリーサービスの強化
  • 無人決済店舗や無人レジの導入
  • ネットから実在店舗につなげるO2O施策の実施

プライベートブランドの強化

売上高を増やす取り組みとして挙げられるのが、プライベートブランドの強化です。

小売業界は消費者にとって身近な存在であり、消費者の購入情報を収集・分析することで、より消費者ニーズに合った商品開発ができる立場にあります。この立場を活用し、小売業界がメーカーと協力して行う商品開発が、プライベートブランドです。

メーカーや卸売業から仕入れる通常商品と比較すると、価格が安い、独自の付加価値が付いているなどが特徴です。プライベートブランドは、スーパーやコンビニエンスストア、ドラッグストアなどで幅広く展開されており、今後もさらに拡大していくことが予想されます。

商品開発から製造・販売まで一貫して手がける製造小売業の躍進

プライベートブランドをさらに一歩進めた形で商品開発を手がけるのが、「製造小売業」と呼ばれる小売業の存在です。製造小売業はその名の通り、自社で商品を開発し、製造から販売まで一貫して行うのが特徴です。

ユニクロや無印良品などが代表例で、独自目線による商品開発で他社と商品を差別化し、メーカーや卸売業者を経由しないことで中間コストを省いています。上手く在庫管理ができれば、十分に利益を確保しつつ大胆な価格設定ができるのが強みです。

超高齢化社会に向けたネット通販・デリバリーサービスの強化

超高齢化社会と言われる日本において、重要性を増しているのが外出せずに買い物ができるネット通販やデリバリーサービスです。

小売業による通販サイト・デリバリーサービスの事例は、以下の通りです。

企業名

通販サイト・デリバリーサービスの事例

イオン株式会社

  • イオンネットスーパー
  • イオンショップ
  • イオンでワイン

セブン&アイ・ホールディングス

  • セブンネットショッピング
  • イトーヨーカドーネット通販
  • セブンミール

三越伊勢丹ホールディングス

  • 三越伊勢丹オンラインストア
  • ISETAN DOOR

中にはドローンを活用して商品を宅配するサービスを開発中の企業もあり、今後さらに多くの小売業がネット通販やデリバリーサービスに参入していくと考えられます。ネット通販やデリバリーサービスは、超高齢化社会において大いに活躍するビジネスモデルとなるでしょう。

無人決済店舗や無人レジの導入

人手不足の影響が懸念されるコンビニエンスストアでは、無人決済店舗や無人レジの導入への試みが始まっています。無人決済店舗や無人レジは、決済に店員が関与しないのが特徴です。

これらの試みは、人件費の削減に加え、多岐に渡るサービスを提供する従業員の負担軽減につながると期待されています。

ネットから実在店舗につなげるO2O施策の実施

ネット通販を通じて商品を販売するだけでなく、ネット通販から実在店舗に来店を促す取り組みも行われています。

代表的なのはO2O(Online to Offline)と呼ばれる取り組みで、ネット上で入手した割引クーポンをきっかけに、実在店舗に足を運んでもらう狙いがあります。O2Oで新たな消費者層を獲得できれば、各店舗の売上拡大にもつながるでしょう。

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