商社業界とは?
商社業界とは、製品やサービスの売り手と買い手のマッチングや、両者の仲介を行う業界です。
商社業界の仕事は、取り扱う商品の選定・調達・管理から物流・販売ルートの開拓まで、消費者の手に商品が届くまでの取引全般をカバーしており、その事業は幅広いものになっています。
また、食品・医薬品・鉄鋼・機械・石油・天然ガス・繊維などあらゆる商材を取り扱っていることも特徴です。メーカーと消費者の間をつなぐ商社のビジネスモデルは欧米には存在しない業態であり、日本の商社は英語でも「Sogo Shosha」と呼ばれています。
業界市場規模 | 66.2兆円 |
成長率 | -5.5% |
利益率 | 5.3% |
出典:業界動向SEARCH.COM「商社業界」
商社業界の市場規模は60兆円越えと、そのスケールの大きさが伺えます。
商社の種類
商社はその業態や取り扱う商材によって、以下の2種類に分類されます。
- 総合商社
- 専門商社
総合商社
総合商社では「ラーメンからロケットまで」と言われるように、幅広く多様な商品を取り扱っています。「商社」と聞いて多くの人が想像する業態がこの総合商社です。
総合商社の最大の強みは、豊富な資金力やノウハウ、広範な物流網を活かし、大規模かつ高度なビジネス展開をできる点です。総合商社は国内はもちろん海外でも積極的に事業を展開している企業が多いことも特徴のひとつと言えるでしょう。
総合商社には、以下に挙げるような企業があります。
専門商社
専門商社とは、食料品や鉄鋼、繊維など特定の分野に特化している商社を指します。専門商社の定義は「売上比率の50%以上が特定の商材や分野によるものであること」です。
総合商社に比べて事業規模の小さい企業が多いですが、特定分野に事業が集中しているため、独自のノウハウを有しているのが強みです。
専門商社には、以下に挙げるような企業があります。
商社業界の主な事業と収益の柱
商社業界で収益の柱となっている業務は、以下に挙げる2つです。
- トレーディング
- 事業投資
トレーディング
トレーディングとは、仲介業者として売り手と買い手の需給をマッチングさせる業務です。売り手には販売機会拡大、買い手には求める商材の調達など、両者のニーズに応えます。
また、以下のような業務もトレーディング事業の一部です。
- 原料や製品をメーカーや小売業者へ販売する
- 海外の原料や製品を輸入する
- 国内で作られた原料や製品を海外に輸出・販売する
トレーディング事業では仲介手数料に加えて、売値と買値の差額が利益となります。
事業投資
事業投資とは、トレーディングから発展したビジネスです。有望と思われる事業に対して資金・人材・ノウハウ・情報などを投資する、事業を買収するなどして収益を出します。
事業投資の対象は鉱物・エネルギー資源のほか、不動産・インフラ・メディア・医薬品など多岐に渡ります。
商社業界の代表的な企業
商社業界の代表的な企業と、その売上高をまとめました。
企業名 | 売上高 |
三菱商事 | 17兆2,648億円(※1) |
伊藤忠商事 | 12兆2,933億円(※2) |
三井物産 | 11兆7,575億円(※3) |
丸紅 | 8兆5,085億円(※4) |
豊田通商 | 8兆280億円(※5) |
住友商事 | 5兆4,950億円(※6) |
双日 | 2兆1,007億円(※7) |
兼松 | 7,679億円(※8) |
野村貿易 | 1,113億円(※10) |
三谷産業 | 844億円(※9) |
※1 出典:三菱商事株式会社「2021年度有価証券報告書」
※2 出典:伊藤忠商事株式会社「2021年度有価証券報告書」
※3 出典:三井物産株式会社「2021年度有価証券報告書」
※4 出典:丸紅株式会社「2021年度有価証券報告書」
※5 出典:豊田通商株式会社「2021年度有価証券報告書」
※6 出典:住友商事株式会社「2021年度有価証券報告書」
※7 出典:双日株式会社「2021年度有価証券報告書」
※8 出典:兼松株式会社「2021年度有価証券報告書」
※9 出典:野村貿易株式会社「2021年度有価証券報告書」
※10 出典:三谷産業株式会社「2021年度有価証券報告書」
三菱商事・伊藤忠商事・三井物産の上位3社は「三大商社」と呼ばれ、それぞれが売上高10兆円を超える大手企業です。
また上位5社までを「五大商社」、上位7社までを「七大商社」とも呼びます。4位以下の商社の売上高は、1位の三菱商事の売上高17兆円と比べると半分以下ですが、それでも七大商社までは売上高2兆円を超える大企業です。
商社業界の職種別の仕事内容
商社業界の職種・仕事内容には、以下のようなものがあります。
- 営業
- 営業事務・貿易事務
- 事業企画
営業
営業の仕事は売り手と買い手を見つけ、その両者を結び付けることです。商社の持つ情報網を活かして事業と事業を繋ぎネットワークを作ることや、取引先との交渉・契約をすること、また需要のありそうな商材を探すリサーチ業務も含まれます。
また、活躍のフィールドが海外にまで広く及ぶこともあるため、商社業界の営業には語学力も求められます。
営業に興味がある方は、「営業職とは何か説明!種類や仕事内容、向いている人の特徴や年収」も読んでみてください。
営業事務・貿易事務
営業事務・貿易事務の業務は、電話対応や書類作成などです。商品のスムーズな輸出入や出納が可能になるよう、営業部門と連携して以下に挙げるような業務を行います。
- 輸出入に関する関係官庁への書類提出
- 船便・航空便の手配
- 国内運送の手配
- 見積書・契約書・発注書など各種書類の作成
- 取引の決済
- 商品の保管
商品や輸出入の手続きに関する専門知識も必要とされることが、他業界の事務とは大きく異なる点です。
事業企画
事業企画は自社で取り扱う商材や投資する事業について、企画・戦略の立案を行う仕事です。市場調査やマーケティングを行って事業の計画を立てるほか、経営方針の立案にも関わります。
商社の主な業務であるトレーディング・事業投資の柱となる仕事を担い、企業の経営を左右する重要なポジションです。
商社業界の年収
商社業界の平均年収と、全業界の平均年収を比較してみましょう。
業界 | 平均年収 |
商社業界 | 1,331万円(※1) |
全業界 | 433.1万円(※2) |
※1 出典:業界動向SEARCH.COM「商社業界」
※2 出典:国税庁「民間給与実態統計調査」
商社業界の平均年収は、全業界の平均年収の約2〜3倍です。「商社は高年収」という一般認識は、概ね正しいと言えるでしょう。
ただし、就職する企業やスキル・経験、職種によっても年収は異なるため、志望する企業やポジションの給与水準は入社前に確認しておきましょう。
商社業界の現状の課題
商社業界の現状の課題として、以下の事柄が挙げられます。
資源安による業績の落ち込み
原油や鉄鉱石などの資源安により、2020年は業界全体で業績の落ち込みが目立ちました。そのため、「資源から非資源へ」が商社業界の現状の課題です。
石油や天然ガス、鉄といった資源は国を動かす重要な商材であることから、取引も非常に大規模です。かつての商社は資源のトレーディングのほか、海外の資源ビジネスへの投資でも収益を挙げてきました。
しかし、資源分野は巨額の利益を生み出す一方で、価格の高騰・下落により大きく収益が変動するので、商社にはコントロール不能である点が課題として語られてきました。
過去には資源バブルの崩壊により、資源価格が急激に値崩れし、大手総合商社が創業以来の赤字を計上した例もあります。商社業界は、資源価格が業績を大きく左右してしまう状況から脱却する方法を模索する必要があります。
メーカーによる「商社外し」
商社はこれまでメーカーと小売りを結び付ける役割を果たしてきました。しかしインターネットの普及により、メーカーが独自に販売先を探して取引を行う「商社外し」の動きが顕著になっています。
ECサイトなどを通じて消費者と直接取引をすれば、商社に中間マージンを支払う必要はありません。メーカーはコスト削減という大きなメリットが得られるため、今後もこの動きは進んでいくと予想されます。
このような背景から、商社は中間マージンをベースとした従来のビジネスモデルではなく、商社ならではの付加価値の提供が求められるようになるでしょう。
商社業界の今後の動向・将来性
商社業界の今後の動向や将来性について解説します。
資源依存からの脱却
過去の資源バブルの影響から、総合商社では資源に振り回されない安定経営とバランスの良い収益体制を目指す動きが進んでいます。その代表例が、非資源分野の強化です。
ここ数年だと、三大商社のひとつに数えられる伊藤忠商事は資源分野を3割ほどに押さえ、非資源分野に注力することで「非資源商社No.1」を謳い業績を伸ばしてきました。
他にも、三菱商事はコンビニ・食品・食品流通事業、三井物産は機械・インフラ・ヘルスケア事業など、非資源分野への注力が進んでいます。
進む海外進出
国内市場がすでに飽和状態にあること、またECサイトの普及によってメーカーと小売業者の直接取引が増えたことから、商社のトレーディング事業の業域は縮小しています。
そのため特に総合商社では、海外企業のM&Aや海外のエネルギー分野への新規参入に事業の軸足を置く動きが進んでいます。ここ数年における大手商社の海外進出としては、以下のような動きがありました。
- 伊藤忠商事:ドールフードカンパニー(アメリカの青果大手)の買収
- 丸紅:太陽光発電会社の買収(台湾)
- 三井物産:燃料用アンモニア生産(アメリカ)
大手商社を中心に、今後は海外進出が着々と進んでいくでしょう。