医療機器業界とは?
医療機器業界とは、医療現場で使われる製品の開発・製造をして、各医療機関へ販売する業界です。
医療技術の発展に伴い、常に新しい医療機器が必要とされるので、医療水準と比例して需要が伸び続ける業界と言えるでしょう。消毒液や血圧計など医療現場以外への販売もあり、安定成長が見込まれる業界の一つです。
医療機器業界の2021〜2022年における市場規模や成長率、利益率は以下のとおりです。
業界市場規模 | 5.2兆円 |
成長率 | 7.2% |
利益率 | 10.2% |
出典:業界動向SEARCH.COM「医療機器業界」
高い成長率を誇る背景としては、コロナ禍で医療機器の需要が増加したことも考えられます。
医療機器業界の代表的な企業
医療機器業界の代表的な企業と、その売上高は次のとおりです。
企業名 | 売上高 |
富士フイルムHD | 8,017億円(※1) |
オリンパス | 7,371億円(※2) |
テルモ | 7,033億円(※3) |
HOYA | 6,614億円(※4) |
ニプロ | 4,947億円(※5) |
シスメックス | 3,637億円(※6) |
日本光電工業 | 2,051億円(※7) |
オムロン | 1,328億円(※8) |
フクダ電子 | 1,320億円(※9) |
コニカミノルタ | 1,099億円(※10) |
※1 出典:富士フイルムHD株式会社「有価証券報告書」
※2 出典:オリンパス株式会社「有価証券報告書」
※3 出典:テルモ株式会社「有価証券報告書」
※4 出典:HOYA株式会社「有価証券報告書」
※5 出典:ニプロ株式会社「有価証券報告書」
※6 出典:シスメックス株式会社「有価証券報告書」
※7 出典:日本光電工業株式会社「有価証券報告書」
※8 出典:オムロン株式会社「有価証券報告書」
※9 出典:フクダ電子株式会社「有価証券報告書」
※10 出典:コニカミノルタ株式会社「有価証券報告書」
売上高トップは、富士フイルムHDです。富士フイルムHDは、X線画像診断や超音波診断装置など医療分野において幅広い事業展開を続けている企業です。
またヘルスケア部門のほか、フォトイメージングや光学・電子映像といったイメージング事業もあり、これらも増収増益に貢献しています。
医療機器業界の各企業が扱う製品例
医療機器業界の各企業が扱う製品例を見ていきましょう。
診察系の医療機器
一つ目が、病院での診察で用いられる「診察系の医療機器」です。具体的には次のようなものを取り扱っています。
- CT(Computed Tomography)
- 内視鏡
- レントゲン
- 超音波診断装置
- MRI(Magnetic Resonance Imaging)
- X線画像診断システム
- 生体現象計測・監視システム
- 画像診断システム
- 体温計
- 血圧計など
病気の早期発見のために、これらは絶え間なく開発・改良が続けられています。
治療系の医療機器
二つ目が、実際に患者の体に触れるものである「治療系の医療機器」です。具体的には次のようなものを取り扱っています。
- カテーテル
- メス
- 注射器
- 人工関節
- 人工骨
- 人工肺
- 心臓ペースメーカーなど
手術で用いる機器のほか、患者の生体機能を補助する機器も治療系の医療機器に含まれます。
その他の医療機器
診断系・治療系以外は、一般的に「その他医療機器」に分類されます。数が多いため一例ですが、具体的には次のようなものを取り扱っています。
- コンタクトレンズ
- 手術用手袋
- 歯科材料
- 衛生材料
- 家庭用マッサージ器など
私たちの生活で馴染み深いものも多いですが、その他医療機器も「有効性及び安全性の確保等に関する法律」で規制されています。そのため商品を販売するときは、厚生労働大臣の許可が必要です。
医療機器業界の職種別の仕事内容
医療機器業界について、職種別に仕事内容を紹介します。
営業
営業は、医療機器業界で利益の要となる職種です。医療従事者が勤務する病院やクリニック、またはメーカーや卸商社などを訪問し、自社の製品について提案・販売をします。
自社の医療機器をどのような場面で活用できるのか、どのように操作するのかをわかりやすく説明しなければならないので、高いコミュニケーション能力が必要とされる職種です。また臨機応変に対応できるよう、医療に関する専門知識を深めておく必要もあります。
サービスエンジニア
サービスエンジニアは、自社の医療機器の保守・メンテナンスをする職種です。顧客である病院やクリニックを定期的に訪問します。
機器に関する専門知識のほか、顧客から医療機器についてヒアリングすることも多く、高いコミュニケーションが求められる職種です。また医療従事者に対して製品に関する説明会を開くこともあります。
開発
医療機器を開発する職種もあります。メスや注射器などの小さいものから、MRIやレントゲン装置といった大型のものまで、開発する機器は企業によってさまざまです。
概念設計から生産設計に至るまであらゆる工程に関わり、新製品開発を進めていきます。また申請用の資料作成も開発業務の中に含まれているため、承認申請に関する知識も必要です。
医療機器業界の年収や給料
医療機器業界の平均年収と、全業界の平均年収を比較してみましょう。
業界 | 平均年収 |
医療機器業界 | 496万円(※1) |
全業界 | 433.1万円(※2) |
※1 出典:求人ボックス「医療機器開発の仕事の年収・時給・給料」
※2 出典:国税庁「民間給与実態統計調査」
全業界と比べると、医療機器業界の年収はやや高い水準にあることがわかります。資格手当を支給している企業であれば、さらなる年収アップも期待できるでしょう。
なお年収は企業や職種、役職等によっても金額が前後します。上記はあくまで参考程度に捉えておきましょう。
医療機器業界の現状の課題
医療機器業界の現状の課題について見ていきましょう。
海外への輸出強化が求められている
今後の医療機器業界は、海外への輸出強化が求められています。高齢化社会の加速や人口の減少により自己負担が増大して、医療機器が国内で売れづらくなる可能性があるからです。
一方、経済産業省の調査によれば、全世界の医療機器の売上高上位はいずれも欧米メーカーが多く、日本の国際競争力が低いというデータもあります。
そのため今後は、中国や東南アジアなど成長率上昇が見込まれる新興国への輸出が重要になってくると言えるでしょう。また現地の医療ニーズを調査し、適切なスペックや価格で医療機器を提供できるような体制づくりも重要です。
きめ細かなサポート体制が求められている
今後はより一層、顧客となる医療機関に対するきめ細かなサポートが求められます。新型コロナウイルスの影響等で従来よりも医療機器の改良や新製品の開発が加速し、顧客への製品説明の重要度が増してきたからです。
実際に新しい医療機器の使い方がわからないと悩む医療従事者は多く、研修をあわせて全面的なフォローが必要となります。そのためきめ細かで質の高いサポート体制が構築できるかどうかが、今後業界が生き残るためのカギとなるでしょう。
医療機器業界の今後の動向・将来性
医療機器業界の今後の動向・将来性について見ていきます。
各企業で採用が活発に
医療機器業界では、コロナ禍の影響で採用活動がスムーズに行えない状況が続いていたものの、2022年以降は採用活動が活発になってきています。特に売上に貢献できるポジションである営業やマーケティング職の求人が増えている状況です。
またデジタル化が進み、AIを活用した医療機器の開発が行われる中で、専門性の高い人材が求められる傾向にあります。
AI技術でできることが広がる
今後は、健康状況が管理できるアプリやがんの診断システムなどAIの技術がさらに広がっていくでしょう。これによって医療の質が上がるだけでなく、業務負担の軽減などが期待されています。
また医療に関する定義が広がりつつあるなかで、ベンチャー企業であっても医療機器分野に参入する傾向が見られます。加えて、今後マイナンバーカードにより個々の医療データ管理ができるようになれば、さらにAI技術が加速していくでしょう。