データサイエンティストとは?
データサイエンティストとは、ビッグデータの分析により合理的な判断を行えるよう、意思決定者をサポートする仕事です。ビッグデータとはさまざまな場所から収集した、人間が把握できないほど膨大な量の情報データを指します。
企業は情報データを有効活用できれば、業務の効率化だけでなくコスト削減やリスクヘッジもしやすくなります。またECサイトによる閲覧履歴やレコメンド機能など、データサイエンスを活用した技術は私たちの身近にあるものと言えるでしょう。
さまざまなデータを有効活用して役立てることが、データサイエンティストの役割です。
データサイエンティストの仕事内容
データサイエンティストはビッグデータ(大量の蓄積データ)を分析し、その解析結果を活用します。
このように聞くと「ビッグデータを分析する」という部分に目がいきがちかもしれません。しかしクライアントの要望に沿って、ビジネスへの貢献を図ることが最終目的です。
例えば医療分野では、データサイエンティストの働きによって、新薬の効果や安全性が明確化されています。またHR分野では、人事の評価・退勤データを分析して、離職に対する対策方法を検討できるようになりました。
データサイエンティストの活躍により、さまざまな業界で経営に必要なデータが得られています。
データサイエンティストの仕事の流れ
データサイエンティストの仕事は、次のような流れで進んでいきます。
- 課題の抽出
- データの収集と分析
- データのクレンジング
- データの解析
- レポートの作成
- 課題解決へのアプローチ
順番に解説していきます。
①課題の抽出
データサイエンティストの仕事は、まず課題の抽出から始まります。企業がどのような問題を抱えていて、どのような目的を果たしたいのかを細かくヒアリングして、必要な情報を精査するプロセスです。
そしてKPI(重要業績判断指数)を活用し、集めるべき情報を項目別に分けていきます。例えば売上向上が目的であるなら、「来店数」「客単価」などが集めるべきデータです。
課題を洗い出しながら、課題解決にはどのようなデータが必要なのかを順に検討していきます。
②データの収集と分析
次に行うのが、データの収集と分析です。
すでにデータがある場合、データベース言語などでクエリ(データベースに対して出される命令)を書き込んでデータを集める方法も存在します。
しかし社内データだけに頼るのではなく、クライアントの解決したい課題を元に新たにデータを収集しなければ、有効な分析にはなりません。
データ収集のためには業務提携や委託をすることもあり、データの発生状況や特徴について相手方とコミュニケーションを取らなければならない場面もあります。
③データのクレンジング
適切なデータを整理するため、データのクレンジングを行います。クレンジングとは、重複やノイズ、表記ゆれなどを特定して分析しやすいデータに加工する処理のことです。
各所で集めたデータを一つのデータベースにまとめて、クレンジングは実行されます。クレンジングにより異常データを削除できればAIの精度向上につながるので、データサイエンティストの重要な業務プロセスの一つとして位置づけされています。
④データの解析
分析内容を照合して、解析を進めます。収集したデータの中から、企業の課題解決につながる必要な情報をピックアップする作業です。
クライアントへのヒアリングをもとに適切な情報を解析しなければならないため、データサイエンティストとしての経験や知識が問われます。
⑤レポートの作成
データ解析を完了させたら、レポートを作成します。
レポート作成は現状を把握して問題点を発見すること、スピーディな意思決定を促すことが目的です。売上やマーケット規模といった企業が置かれている現状の把握ができ、未来を予測できるようになります。
そしてデータサイエンティストは解析結果をただ伝えるだけでなく、そこから考えられる問題解決の方法や方向性を提案する必要があります。
⑥課題解決へのアプローチ
解析した結果をもとに、実際の業務へと組み込みを行います。場合によっては組み込んだ後、どのような結果が得られたかを分析・検証することも必要です。
データ分析が中心のデータアナリストはここまでの作業は求められないことが多く、データサイエンティストならではの仕事と言えるでしょう。
データサイエンティストが注目されている背景
インターネットが一般に普及し、あらゆる場面で情報を収集できるようになったことが、データサイエンティストが注目された背景です。
2000年以降、データベースの管理が複雑になり、どこにスポットを当ててビジネスを展開すれば良いかが各企業においての課題となりました。ニーズが多様化する中、ビジネス課題に直結する提案が欲しいというニーズから生まれたのがデータサイエンティストです。
データサイエンティストに必要なスキル
データサイエンティストは専門性が高い仕事であるため、次のようなスキルが必要です。
- データサイエンススキル
- コンサルティングスキル
- コミュニケーションスキル
- マネジメントスキル
- ITスキル
それぞれ詳しく解説していきます。
データサイエンススキル
大前提として、データサイエンティストにはデータサイエンススキルが必要です。具体的には基礎数学、データの理解・検証、機械学習技法などの知識が求められます。
そして知識だけでなく、ビッグデータを取り扱うために必要な分析用のツールも使いこなせるようになっておいた方が良いでしょう。
コンサルティングスキル
データサイエンティストには、コンサルティングスキルが求められます。データを分析する前に、どのような課題があるのか、課題解決をするためにどのようなデータが必要なのかを細かくヒアリングする必要があるからです。
またデータの分析から得られた結果をクライアントへ説明し、新たなビジネスモデルを知ってもらわなければなりません。技術面以外に、このようなコンサルティングスキルも重要とされている仕事です。
そして顧客満足度を高めるには、業界全体の傾向なども理解した上で相手が理解しやすいよう話を進める必要があります。
コミュニケーションスキル
データサイエンティストには、コミュニケーションスキルも欠かせません。課題の抽出にはクライアントへのヒアリングが必須であり、話す力と聞く力の両方が必要だからです。
課題解決のアプローチを進める段階でも、クライアントへの説明やビジネス提案が必要となります。
またクライアントが、必ずしもデータに関して専門知識を持っているとは限りません。そのため、できるだけわかりやすい言葉で説明する工夫も必要です。
マネジメントスキル
クライアントだけでなく社内のメンバーとも関わりの深いデータサイエンティストには、マネジメントスキルも求められます。業務の中で、エンジニアを含めてさまざまな部門の担当者とチームを組んで仕事を進めていくからです。
さらにリーダーポジションに就けば、チーム内での進捗管理やリソース管理、予算管理なども考えて進めていかなければなりません。決められたスケジュール、そして限られた予算の中で結果を出すためには、関係者との調整力も必須です。
マネジメントスキルは、データサイエンティストとしての経験が問われる部分でしょう。
ITスキル
データサイエンティストには、ITに関する深い知識が求められます。特に業務の一つであるビッグデータの収集では、WebサイトやセキュリティといったIT分野の知識が必要不可欠です。
なお、データ解析に用いられる言語にはPython(パイソン)やR言語などがあります。加えてシステム運用の方法論など幅広いIT知識があれば、よりスムーズに業務が進められるようになるでしょう。
データサイエンティストが取得すべき資格
データサイエンティストが取得すべき資格には、次の4つが挙げられます。
- 基本情報技術者試験
- 応用情報技術者試験
- G検定・E資格
- 統計検定
それぞれどのような資格なのかを解説していきます。
基本情報技術者試験
基本情報技術者試験は、情報処理推進機構(IPA)が運営するITの基礎に関する国家資格です。試験ではコンピュータサイエンス、システムの設計から経営戦略の立案まで、ITに関するあらゆる基礎知識が幅広く出題されます。
取得を目指せば自分のスキルレベルを確認できるほか、ITに関する基本知識が身につくでしょう。
システムエンジニアやプログラマーだけでなく、データサイエンティストの方も取っておきたい資格の一つです。
出典:IPA(情報処理推進機構)「基本情報技術者試験」
応用情報技術者試験
応用情報技術者試験は、基本情報技術者試験の上位試験にあたる資格です。
ITに関する応用的知識・スキルのほか、マネジメントや経営戦略に関する知識なども問われるため、基本情報技術者試験に比べて難易度が高くなっています。
出典:IPA(情報処理推進機構)「応用情報技術者試験」
G検定・E資格
G検定・E資格は、一般社団法人日本ディープラーニング協会が主催する検定試験です。
G検定はディープラーニング(深層学習)の基礎知識が問われるもので、取得を目指せばビジネスでディープラーニングを活用する能力が身につけられます。またE資格はディープランニングの理論を理解するための資格で、実装スキルを求めるエンジニア向けの資格です。
出典:一般社団法人 日本ディープラーニング協会「応用情報技術者試験」
統計検定
統計検定は一般財団法人統計質保証推進協会が主催する検定試験であり、統計に関する知識や活用力を測ることを目的としています。データサイエンティストの登竜門的な検定であり、統計に関する基礎的な知識から実際に活用する能力に至るまで幅広く学べます。
レベル別5段階の試験になっていて、自分のレベルに合わせての受検が可能です。
出典: 一般財団法人 統計質保証推進協会「統計検定」
データサイエンティストに向いている人
データサイエンティストに向いている人の特徴は、次のとおりです。
- 数字や分析が好きな人
- 地道にコツコツ取り組める人
- 探求心が強い人
それぞれ詳しく解説していきます。
数字や分析が好きな人
数字や分析が好きな人は、データサイエンティストに向いています。数学や統計に関して興味を持って取り組める人は、さまざまな角度からビジネスとして活用できる価値あるデータを引き出せるからです。
また分析が好きな人は単純に数字を集めるだけでなく、そこで得られる情報を深掘りして効率的な分析ができます。
地道にコツコツ取り組める人
地道にコツコツ取り組める人もデータサイエンティストに向いています。データサイエンティストは膨大なデータから必要な情報を得るため、何度も繰り返しデータを分析して予測する必要があるからです。
情報処理の過程において、時には単調な作業の繰り返しになることもあるでしょう。長時間にわたる作業が苦にならない人であれば、データサイエンティストとして長く働き続けられます。
探究心が強い人
探究心が強い人は、データサイエンティストに向いています。
課題解決のため真実を明らかにしていきたいという強い気持ちを持つ人は、多くのデータを前にしても、試行錯誤を繰り返しながら努力をしていけるでしょう。
そして深く知りたい、知識を探求し続けたいという人なら、たとえ経験が浅くてもデータサイエンティストとしての経験を積みやすい傾向にあります。
データサイエンティストに向いていない人
一方で、データサイエンティストに向いていない人の特徴は次のとおりです。
- 華やかなイメージだけで決めようとしている
- 細かい作業が苦手な人
- 数字やデータに苦手意識を持つ人
それぞれ詳しく解説していきます。
華やかなイメージだけで決めようとしている
華やかなイメージだけで決めようとしている人は、データサイエンティストに向いていないかもしれません。
IT技術を使ってデータを収集・解析すると聞けば、華やかな仕事をイメージする人もいるでしょう。しかし実際には、クライアントとの入念なヒアリングや定期的なレポート作成、会議への参加など大変な部分も多い仕事です。
表面的なイメージだけを見るのではなく、具体的な仕事内容を知った上で自分に向いているのかどうかを判断しましょう。
細かい作業が苦手な人
計算など細かい作業が苦手な人は、データサイエンティストに向いていないでしょう。データ処理は細かな入力作業が要求されるため、苦手意識がある人だと効率良く仕事が進められないからです。
業務プロセスによってはデスクワークで一日が終わることもあり、細かい作業が辛いと感じる人も多くいます。
数学やデータに苦手意識を持つ人
数字やデータに苦手意識を持つ人も、データサイエンティストとして活躍するのは難しいでしょう。実際の業務の中で、確率統計や微積分、線形代数など数学の知識が必要となるシーンが多いからです。
またデータサイエンティストは集めたデータに目を通しながら、特徴のある箇所やパターンを確認します。その際も、利用するアルゴリズムや分析手法を考える必要があり、数学の知識が要求されることの多い仕事です。
データサイエンティストの将来性
インターネットやAIの発展により膨大なデータが溢れる情報化社会において、データサイエンティストの将来性は非常に明るいと言えるでしょう。
従来は企画担当者やコンサルタントが担っていた経営戦略の打ち出しも、今ではデータに基づいて考えるのが当たり前の時代になってきました。ビッグデータを活用したいと思う企業は増加傾向にあり、データサイエンティストは今後も需要が伸びていくことが予測されます。
データサイエンティストの年収や給料事情
データサイエンティストとして働く正社員と派遣社員の給与は次のとおりです。
勤務形態 | 平均年収・平均時給 |
正社員 | 年収697万円 |
派遣社員 | 時給2,606円 |
出典:求人ボックス給料ナビ「データサイエンティストの仕事の年収・時給・給料」
総務省統計局の「家計調査」によると、国内全体の平均年収は433万円です。一方で、正社員で働くデータサイエンティストの平均年収は697万円と、全体平均の200万円以上です。
さまざまなスキルを高水準で要求される職業であることが、年収の高さにつながっていると考えられます。