応用研究とは?
応用研究とはその名の通り、これまでの研究で明らかになっている理論や技術をさらなる研究を通じて応用・発展させ、実用化に結びつける仕事です。
世の中にはさまざまな研究がありますが、新たに発見された理論や技術が直ちに実生活に役に立つわけではありません。応用研究の役割は、これらの研究結果をさらに掘り下げ、どのようにすれば実生活に役に立つのか、その可能性を模索することです。
応用研究と基礎研究との違い
基礎研究とはその名の通り、あらゆる分野で基礎となる理論や技術を研究する仕事のことを言います。基礎研究と応用研究の最大の違いは、研究によって目指す方向性です。
基礎研究が重視するのは、研究を通じて物事の仕組みや成り立ち、構造など未知の領域を明らかにすることです。そのため、基礎研究で新事実が発見されるまでは長期を要することが多く、発見された知識が直接何の役に立つのかわからないこともあります。
このような背景から、基礎研究は直接売上や利益に結びつけることが難しく、大学などの純粋な学術機関で行われる傾向があります。
一方応用研究は、基礎研究で明らかになった理論や技術を土台に研究を重ね、実社会に役立てることが目的です。そのため、応用研究には期限が決まっていることが多く、何のために研究するのか、その目的も比較的はっきりしています。
基礎研究に興味がある方は、「基礎研究とは?仕事内容や年収事情をわかりやすく解説」も読んでみてください。
応用研究と開発研究との違い
開発研究とは、基礎研究や応用研究によって明らかになった理論や技術を土台に、さらに研究を重ねて新たな素材・装置・製品(商品)・プロセスなどを生み出す仕事のことを言います。既存製品や生産工程を改良することも、開発研究の業務の一つです。
ステップとしては、応用研究の先に開発研究があります。
応用研究の種類と事例
基礎研究で得られた知識を土台に実用化を目指す応用研究は、企業の競争力や差別化につながりやすく、幅広い分野で積極的に行われています。
実際に行われている応用研究の種類や事例は、以下の通りです。
種類 | 事例 |
分析技術 | 既存の技術をさらに応用・発展させ、小型でありながらも高い感度、高い信頼性を兼ね備えた分析技術の確立を目指す |
機能性材料 | 電池やデバイスに使用する機能性素材の高性能化を目指し、ナノレベルにおける材料の成り立ちや動作環境における影響を解明する |
体外診断薬 | 体外診断薬の実用化を目指し、診断技術をさらに応用・発展させるための研究を行う |
遺伝子治療 | 難治性疾患に対する新たな治療法を確立するため、ゲノム編集技術を用いた研究を行う |
医薬品 | ips細胞を活用して分化細胞や疾患モデル細胞を作り、医薬品としての実用可能性を目指す |
需要予測 | 機械学習や統計手法を用いてビッグデータを分析し、新規事業の可能性を検証する |
化粧品 | 他社にはない強みを持つ技術確立を求めて、スキンケア理論や製剤研究を行う |
グリーン化学品 | 環境負荷の少ない脱炭素社会を実現するため、バイオ燃料やグリーン化学品につながる技術を確立する |
回路保護部品 | 環境負荷の少ない脱炭素社会を実現するため、電動車両と搭乗者の安全を守る回路保護部品の研究を推し進める |
人工知能 | 社会で求められるさまざまなビッグデータ解析に対応するため、自社開発した人工知能エンジンの機能向上を求めて研究を推し進める |
自動運転 | 配送業界の労働者不足を解消するため、自動配送ロボットの実現化に向けて映像や通信技術を活用したサービスソリューションの研究を行う |
応用研究の仕事内容
応用研究で行われる仕事内容は、何をテーマに研究するかによって異なります。応用研究は将来商品の実用化を目指して行われるため、世の中のニーズを満たし、ビジネスとして成立する可能性が高いテーマが選ばれることがほとんどです。
応用研究の仕事は、研究テーマに基づいて仮説を立てることからはじまります。具体的な仮説が定まったら、その仮説が正しいかどうか実験を通じて検証を繰り返し、新しい理論の発見や技術の確立を目指します。
応用研究では、実験で得られたデータを分析し、正しく評価することも欠かせない業務の一つです。さらに文献調査を通じて最近の研究結果を把握したり、自身の研究の方向性について考察したりすることも成果を出すために大切です。
応用研究の魅力ややりがい
ここでは、応用研究の魅力ややりがいを3つ取り上げて解説します。
- 研究が社会に役立っている実感を持ちやすい
- 自分が興味のある分野を思う存分追求できる
- 優秀な人材と一緒に仕事ができる
研究が社会に役立っている実感を持ちやすい
応用研究のやりがい・魅力の一つ目は、自分が関わった研究が社会に役立っている実感を持ちやすいことです。
実用化を目指して行われる応用研究は、何のために研究するのか目的が明確であり、自分が関わった技術が商品や製品に活用されることが多いです。自分が関わった研究成果を商品や製品など目に見える形で確認できるのは、基礎研究にはない応用研究の醍醐味と言えます。
応用研究で発見した理論や技術は、長年議論されてきた社会問題を解決したり、これまで不可能とされてきた常識を覆す画期的な発見につながったりすることもあります。
自分の仕事を通じて社会に大きなインパクトを与えられることも、応用研究をする上でやりがいにつながるでしょう。
自分の興味のある分野を思う存分追求できる
応用研究のやりがい・魅力の二つ目は、自分が興味のある分野を思う存分追求できることです。
実用化を目指して行われる応用研究は、与えられた研究テーマを深く掘り下げ、これまでにない理論の発見や技術の確立を目指します。専門性が高い応用研究の仕事は、配置転換が行われることは少なく、長期にわたって自分が選んだ研究分野の専門性を高められるのが特徴です。
自分がこれまで学んできた知識を活かし、興味のある分野で思う存分研究ができる職場は、研究者を目指す人にとって魅力的な環境と言えます。
優秀な人材と一緒に仕事ができる
応用研究のやりがい・魅力の三つ目は優秀な人材と一緒に仕事ができることです。
応用研究の仕事は高い専門性が必要であり、必然的に優秀な人材が周囲に集まってきます。最先端の技術を追い求め、周囲の研究者と切磋琢磨しながら互いに刺激を与え合う環境は、仕事へのモチベーションを高める大きな原動力になります。
応用研究者になるには?
応用研究者になるには、仕事の特性上高度な専門知識が求められます。大前提として、基礎研究の内容を理解できるだけの前提知識が必要です。
応用研究者として企業に採用されるためには、専門分野において理系の大学を卒業していることが一つの条件と言えます。修士または博士レベルの経歴を持ち合わせている方が、選考では有利になるでしょう。
さらに応用研究では研究の最新動向を把握する必要があり、英語の論文が読めることが望ましいです。応募企業の業界に関する専門知識に加え、読み書きできるだけの英語力があれば、アピールポイントにできます。
応用研究に向いている人
これまで紹介してきた応用研究の特徴や仕事内容から、応用研究に向いているのは以下に当てはまる人です。
- 強い知的好奇心を持ち合わせている人
- 可能性を信じて根気強く取り組める人
- 幅広い視野を持って世の中のニーズを捉えられる人
- チームワークを大切にした言動ができる人
- 目標に向けて計画的に物事を進められる人
それぞれ詳しく解説していきます。
強い知的好奇心を持ち合わせている人
応用研究には、強い知的好奇心を持ち合わせている人が向いています。なぜなら、未知の分野に踏み込んで新たな発見をもたらす応用研究の仕事は、「もっと知りたい」「物事を明らかにしたい」と感じる強い気持ちなくして成し遂げることはできないからです。
応用研究は最先端の技術や理論を追い求めることも多く、常に学び続ける姿勢が求められます。強い知的好奇心を持ち合わせる人なら、学ぶ過程を心から楽しいと感じ、かつそれを超える研究成果を出せるでしょう。
可能性を信じて根気強く取り組める人
応用研究には、可能性を信じて根気強く取り組める人が向いています。その理由は、応用研究は未知の分野への挑戦であり、幾多の試行錯誤を経てやっと真実が明らかになることが多いからです。
研究で思い通りの成果が出ないからといって、いちいち落ち込んでいては研究を前に進めることができません。自分の仮説とは異なる結果が出ても、「何が足らないのだろう?」と冷静に受け止め、成功できる可能性を信じて根気強く取り組むことが求められます。
幅広い視野を持って世の中のニーズを捉えられる人
応用研究には、幅広い視野を持って世の中のニーズを捉えられる人が向いています。商品や製品の実用化を目指して行われる応用研究は、仕事を進める大前提として、世の中のニーズを把握することが必要だからです。
いくら優れた技術でも、世の中のニーズとかけ離れていては売上や利益を生み出せません。研究内容が売り上げにつながらないと判断された場合、研究自体が打ち切りとなることもあります。
応用研究は民間企業で採用が多い職種です。利益を追求する民間企業で研究者として認められるには、企業から与えられたテーマをただ研究するだけでは十分とは言えません。
常に世の中のニーズに関心を持ち、「ニーズを満たす商品を作るにはどんな技術が必要か?」など、研究の方向性を考えながら業務を進める必要があります。
チームワークを大切にした言動ができる人
応用研究には、チームワークを大切にした言動ができる人が向いています。その理由は、応用研究は一人で業務を進めることは少なく、基本的にチームで協力し合って進めることが多いからです。
さらに応用研究では、外部機関や大学、他企業と一緒に共同研究を行う場合もあります。共同研究では、自分とは異なる専門分野の研究者と一緒に業務を進めることも多いです。そんな場面でも、自分の専門だけにこだわらず、素直に相手から学ぶ姿勢が求められます。
チームワークを大切にした言動ができる人なら、研究チームと良好な人間関係を築き、互いに高め合いながら研究を進められるでしょう。
目標に向けて計画的に物事を進められる人
応用研究には、目標に向けて計画的に物事を進められる人が向いています。企業が実施する応用研究は、研究目標と期間が決まっていることが多く、決められた期間内に成果を出さなければならないからです。
限られた期間で成果を出すには、業務に優先順位を付け、計画的に進めることが欠かせません。普段から目標に向けて計画的に物事を進められる人なら、応用研究の現場でもスムーズに業務を進められるでしょう。
応用研究に向いていない人
逆に、応用研究に向いていない可能性があるのは、以下の特徴に当てはまる人です。
- 熱しやすく冷めやすい人
- 幅広い業務を経験したい人
- プレッシャーに弱い人
それぞれ詳しく解説していきます。
熱しやすく冷めやすい人
熱しやすく冷めやすい人は、応用研究に向いていない可能性があります。その理由は、応用研究は一つの研究テーマを深く専門的に追求するため、研究テーマに対し情熱を持ち続ける必要があるからです。
また、商品の実用化を目指す応用研究では、企業の競争力を維持するために、常に最先端レベルの知識が求められます。熱しやすく冷めやすい性格だと、研究テーマについて学び続けることが難しくなり、仕事をすること自体がつらく感じられるかもしれません。
幅広い業務を経験したい人
幅広い業務を経験したい人も、応用研究に向いていない可能性があります。なぜなら、応用研究は高い専門性が求められるゆえに、業務範囲は限定的になりがちだからです。
応用研究の仕事では、自分の研究テーマに深く精通する必要がありますが、一方で他の業務で使用するような一般的なスキルを磨く機会はそれほど多くありません。
そのため、幅広い業務を経験して自分に合う業務を見つけたい人や、将来他分野への転職も視野に入れている人には向いていない可能性があります。
プレッシャーに弱い人
プレッシャーに弱い人も、応用研究に向いていない可能性があります。応用研究は民間企業で実施されていることが多く、研究コストをかけた分、それに見合う成果が求められるからです。
期間内に経営陣が目指す成果を出せなければ、投資する価値はなかったとみなされ、研究が打ち切られてしまう場合もあります。そのため、応用研究の現場では、成果を上げなければならないプレッシャーを感じながら日々研究に取り組むことになるでしょう。
応用研究者として働くことは、その企業の未来を左右する研究に関わっていくことを意味します。それだけに応用研究に求められる期待は大きく、プレッシャーに打ち勝つ強い意志と研究を成功させようとする責任感が求められます。
応用研究の年収や給料事情
応用研究における年収や給料事情について確認しておきましょう。
商品や製品の実用化を目指す応用研究は、純粋な学術研究を目指す大学や研究機関より、民間企業での募集が多い傾向があります。応用研究に限定した年収データは存在しないため、ここでは応用研究を含む研究者の年収を紹介します。
勤務形態 | 年収・時給 |
正社員 | 年収550万円 |
アルバイト・パート | 時給1,496円 |
派遣社員 | 時給1,192円 |
出典:求人ボックス給料ナビ「研究者の仕事の年収・時給・給料」
国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、全国における正社員の平均年収は508万円です。研究者の平均年収550万円は、それより42万円高い金額です。
応用研究の年収が平均より高い理由には、業務を進めるにあたって高い専門性が求められることや、「修士以上」の条件が付くなど採用基準が厳しめであることが挙げられます。
ただし、上記の平均年収はあくまで職種全体における平均金額であり、実際に受け取る年収は、所属企業や役職、勤続年数などの条件によって異なります。
応用研究者として働きながら年収を高めていくには、最新の理論や技術を学びながら専門性を磨き、チームをまとめる管理者として役職を高めていく必要があるでしょう。