市場調査・リサーチとは?
市場調査・リサーチとは、商品やサービスを開発するにあたって消費者のニーズを調査・分析するマーケティング職の1つです。
どれだけ良い商品やサービスを開発しても、消費者のニーズに合わなければ売上は伸びません。そのため、消費者のニーズを知るために市場調査・リサーチを行う必要があります。
また、既存の商品についても市場調査・リサーチを行うことで、課題の発見・対策や競合商品との差別化などの戦略を図ることができるでしょう。市場の動向や消費者のニーズなどの情報は、正確かつ最新であるほど優れたデータとされています。
市場調査・リサーチは、企業の事業活動そのものと密接にかかわる重要な仕事です。
市場調査・リサーチの仕事内容
市場調査・リサーチの仕事は、次のような流れで進んでいきます。
- 企画
- 調査設計
- 実査
- 集計・分析
- 報告・提案
- 評価
それぞれの仕事内容がどのようなものか、詳しく見ていきましょう。
1.企画
企画では、どのような情報が必要か、またその情報をどのような手段で入手できるかを明確にします。
必要な情報は自社や依頼主が抱えている目的や課題によって異なるため、まずは目的や課題の整理が必要です。その後、必要な情報を入手するにはどのような手段を取る必要があるか、その方向性を決めます。
2.調査設計
調査設計では、企画で決めた入手する情報や手段などの方向性をもとに、具体的な調査内容を決定します。ここで決定するのは、主に下記5つの項目です。
- 調査対象者
- 具体的な調査項目(質問内容)
- 調査手法
- 対象人数
- スケジュール
年齢や職業、性別等でカテゴライズした調査対象者やその人数、必要な情報を得るための調査手法や質問内容を決定します。また、調査のスケジュールを立てる必要もあります。
3.実査
調査設計で調査の詳細を詰めた後は、計画に沿って実査を行います。市場調査・リサーチには多くの方法がありますが、ここでは代表的な下記の4つの調査方法を紹介します。
- アンケート調査
- グループインタビュー・座談会
- 面接法(デプスインタビュー)
- 覆面調査(ミステリーショッパー)
アンケート調査
アンケート調査は、インターネットや街頭などで不特定多数の対象者からアンケートに回答してもらう調査手法です。アンケートの内容さえ考えればすぐに実施でき、簡単・低予算なのが特徴です。
近年はインターネットの普及により、既存のアンケートシステムを利用してアンケートを行うケースも増えました。
グループインタビュー・座談会
グループインタビュー・座談会は、対象者を一か所に集めてインタビューや討論の形で回答を集計する調査手法です。
インタビュアーによる進行でインタビューを行う形式や、題目に沿って参加者同士で自由に話し合いをしてもらう形式などがあります。自由に話し合いをしてもらうことで、質問や題目に対してより多くの意見を収集できるのが特徴です。
面接法(デプスインタビュー)
面接法(デプスインタビュー)は、対象者と1対1で対面し、あらかじめ決めておいた質問項目についてヒアリングする調査手法です。
1対1で行うため時間はかかりますが、アンケート調査よりも信頼関係を築きやすく、より深い意見を読み取れます。
覆面調査(ミステリーショッパー)
覆面調査(ミステリーショッパー)は、調査員に顧客として店舗に訪問してもらい、店舗の対応などを調査する手法です。
店舗やサービスの評価を顧客目線で調査でき、現状を把握しやすいため問題改善に役立ちます。
4.集計・分析
集計・分析では、調査で収集したデータをさまざまな手法で集計・分析します。課題や目的に応じて、最適な分析手法を用いることが重要です。
ここでは、代表的な下記4つの分析手法を紹介します。
- 3C分析
- SWOT分析
- PEST分析
- ファイブフォース分析
3C分析
3C分析とは、下記3つのCについてその関係性を明確にして分析する手法です。
- 顧客(customer)
- 競合他社(competitor)
- 自社(company)
市場は顧客・競合他社・自社で構成されているという考え方のもと、それぞれの要素を深く分析します。例えば、顧客の場合は購入する人口や頻度、購入決定者、購入のプロセスなどの視点を持つことが重要です。
また、競合他社や自社であれば、それぞれの強みや弱み、シェアや売上規模などの市場に対する影響力、投資状況などを分析してその差を明確にします。
SWOT分析
SWOT分析とは、自社の内部環境と外部環境をプラス要因とマイナス要因に分類して分析する手法です。自社の内部環境では資産やブランド力、価格、品質などを分析し、外部環境では競合他社や法律、市場トレンドなどを分析します。
それぞれの要素は、下記4つの項目に分類できます。
- 強み(Strength)
- 弱み(Weakness)
- 機械(Opportunity)
- 脅威(Threat)
SWOT分析を行うことで、既存商品の場合はその改善点を、新商品の場合は将来的なリスクなども分析できます。
PEST分析
PEST分析とは、自社を取り巻く外部環境が、現在または将来的にどのような影響を与えるかを下記4つの項目をもとに把握・予測する分析手法です。
- 政治(Politics)
- 経済(Economy)
- 社会(Society)
- 技術(Technology)
政治面では法規制や国の政策、経済面では景気や為替相場、社会面では人口推移や世論、技術面では技術改革などがあります。それぞれの要素は、その一つひとつが大きな影響を及ぼすものであるため分析が欠かせません。
ファイブフォース分析
ファイブフォース分析は、外部環境における下記5つの力(フォース)に注目した分析手法です。
- 買い手の交渉力
- 売り手の交渉力
- 新規参入者の脅威
- 競合他社の脅威
- 代替商品・サービスの脅威
これらの環境分析をもとに、自社に対する脅威や優位性の把握、課題の発見、新規参入や撤退などの事業判断を行います。
5.報告・提案
報告・提案では、調査・分析したデータを報告書としてまとめます。論理的かつ正しく結果を理解できるようにまとめることが重要です。
また、調査結果をもとに次の具体的なアクションの提案をがめられる場合もあります。どのようにアプローチすればいいか、商品やサービスのネーミング、価格などを考案することも市場・リサーチの仕事の1つです。
6.評価
評価では、商品やサービスの導入後に市場での状況を調査します。市場調査・リサーチの仕事は、商品やサービスを導入して終わりではありません。
新たな課題が見つかった場合は、再度ブランディングや商品・サービスの改良を行う必要があります。そのため、導入後も市場動向の調査は欠かせません。
市場調査とマーケティングリサーチの違い
市場調査とマーケティングリサーチは、どちらも調査を行う業務ですが目的が違います。それぞれの目的は下記の通りです。
種類 | 目的 |
市場調査 | 市場動向を数値などのデータで把握する |
マーケティングリサーチ | 調査結果から将来の予測や分析、考察を行う |
市場調査はマーケティングリサーチの一部であり、特に過去から現在までの市場動向を調査します。一方でマーケティングリサーチは、市場調査を含むさまざまな調査の結果から、将来の予測や分析、考察を行います。
市場調査・リサーチが活躍する場所
市場調査・リサーチが活躍する場所は、主に下記の3つです。
- マーケットリサーチ会社
- コンサルティング会社
- 企業のマーケティング部門
場所ごとに、市場調査・リサーチの対象となる市場や規模が違います。それぞれの特徴について、詳しく見ていきましょう。
マーケットリサーチ会社
マーケットリサーチ会社は、市場調査・リサーチを請け負う会社です。自社商品ではなく、企業などから依頼を受けて該当の商品やサービスの市場調査・リサーチを行います。
仕事の流れとしては、クライアント企業にヒアリングを行って調査の方向性や方法を検討し、企画~報告書作成までを請け負います。最終的には、クライアント企業に調査内容を報告し、必要であれば調査内容をもとに提案を行うこともあるでしょう。
市場調査・リサーチを請け負う業種はマーケットリサーチ企業によって異なり、幅広い業種に対応している企業や、特定の業種のみを対象としている企業があります。
コンサルティング会社
コンサルティング会社でも、市場調査・リサーチの業務を行うことがあります。コンサルティング会社の場合は、商品やサービスではなく新規事業やM&A、DX推進などの大きな規模の市場調査・リサーチを行う傾向にあります。
そのため、通常のマーケットリサーチ会社とは異なる視点・切り口から調査することも珍しくありません。コンサルティング会社は、一般企業だけではなく官公庁などからも市場調査・リサーチを依頼されることがあります。
企業のマーケティング部門
市場調査・リサーチを行う場として、もっとも想像しやすいのは企業のマーケティング部門でしょう。企業のマーケティング部門では、自社の商品やサービスについて市場調査・リサーチを行います。
自社の商品やサービスが調査対象となるため、社内広報や企画職とのかかわりが強いことが特徴です。
市場調査・リサーチに活かせる資格
市場調査・リサーチ職に就くために必須の資格はありません。しかし、下記の資格を保有していると有利になる場合があります。
- Webアナリスト検定
- マーケティング・ビジネス実務検定
- 社会調査士
Webアナリスト検定
Webアナリスト検定とは、一般社団法人日本Web協会(JWA)が認定する、Webサイト内で収集したデータ分析や改善案の提示などの知識・スキルを測る検定試験です。調査・リサーチではWebサイトのアクセス内容などを分析することがあるため、Webアナリスト検定をに合格していると、それらの知識を有していることの証明になります。
※参考:一般社団法人日本Web協会「Webアナリスト検定」
マーケティング・ビジネス実務検定
マーケティング・ビジネス実務検定とは、国際実務マーケティング協会が認定する、マーケティングに関する幅広い知識を測る検定試験です。試験では、マーケティングリサーチを含む広範囲のマーケティング知識を問われるため、マーケティング初心者から実務レベルの方まで幅広い方におすすめの資格です。
※参考:国際実務マーケティング協会「マーケティング・ビジネス実務検定」
社会調査士
社会調査士とは、一般社団法人社会調査協会が認定する、さまざまな市場調査の方法や世論、市場動向などに関する調査・分析・改善提案などの能力を測る資格制度です。市場調査に重きを置いており、統計や世論調査の結果を検討するなど社会調査の専門家であることを証明できます。
受験には、大学で指定の科目単位を取得していることなどの要件があるため注意しましょう。
※参考:一般社団法人社会調査協会「社会調査士とは」
市場調査・リサーチに求められるスキル
市場調査・リサーチはマーケティング全般に関わる職種であるため、下記のようなスキルが求められます。
- コミュニケーション能力
- プレゼンテーション能力
- 論理的思考力
コミュニケーション能力
市場調査・リサーチでは、1対1の面談やグループインタビュー、座談会など、多くの人と会話して情報やニーズを聞き出す必要があります。人と直接会話して行う調査では、コミュニケーション能力次第で調査結果が変わることも珍しくありません。
いかに必要な情報や潜在的なニーズを引き出せるかはコミュニケーション能力によって決まるため、特に重要なスキルです。
プレゼンテーション能力
分析した結果に対する提案も、市場調査・リサーチの仕事です。プレゼンでは、わかりやすく・正しく理解できるように説明する必要があります。
調査結果が正しく相手に伝わらなければ、間違った方向に事業が進む恐れもあります。そのため、プレゼンテーション能力が必要不可欠です。
論理的思考力
市場調査・リサーチでは、分析した結果と仮説のギャップを踏まえて、データから読み取れることをロジカルに考察する必要があります。データから読み取れることが必ずしも正しいとは限りませんが、道筋を立てて論理的に説明できなければ説得力はありません。
相手に納得してもらうためには、論理的思考力が求められます。
市場調査・リサーチに向いている人
下記のような人は、市場調査・リサーチ職に向いている。
- 数字に強い人
- 流行に敏感な人
- 物事を客観的に見られる人
数字に強い人
分析では膨大な数字を扱うため、数字に強い人が向いています。
ただし、複雑な数学問題を解くような能力は求められず、大切なのは調査結果の数字から傾向を読み取ることです。そのため、市場調査・リサーチには理系だけではなく文系出身者も少なくありません。
流行に敏感な人
市場調査・リサーチは市場動向を把握しながら行う必要があるため、常に世間の流行に敏感な人が向いています。今後どのようなものが流行するか、世の中の動きにアンテナを立てておくことは、市場調査・リサーチには欠かせません。
物事を客観的に見られる人
データ分析の際に、主観が入ると正しく分析ができません。市場調査・リサーチでは、常に客観的にデータを見る必要があります。
論理的に説明するためにも、物事を客観的な視点で見ることは重要です。データを客観的に見ることで、正確な分析を行えるでしょう。
市場調査・リサーチに向いていない人
仕事の性質上、市場調査・リサーチに向いていない人がいるのも事実です。特に向いていないのは、下記のような人です。
- 単純作業が苦手な人
- 規則的な生活がしたい人
単純作業が苦手な人
市場調査・リサーチは頭を使う仕事だけでなく、調査で収集した膨大なデータの整理などの単純作業も多いです。そのため、データ整理などの単純作業が苦手な人には向いていません。
規則的な生活がしたい人
市場調査・リサーチを行う際は、調査を行う相手に合わせた時間帯に動く必要があります。また、マーケットリサーチ会社などで働く場合は、依頼元のスケジュールに合わせる必要があるでしょう。
そのため、休日出勤やフレックス制度を活用した勤務になることが多く、規則的な生活を送れないときもあります。
市場調査・リサーチの年収や給料事情
市場調査・リサーチの年収給料は、下記の通りです。
勤務形態 | 平均年収・平均時給 |
正社員 | 年収604万円 |
アルバイト・パート | 時給1,102円 |
派遣社員 | 時給1,803円 |
出典:求人ボックス給料ナビ「リサーチャーの仕事の年収・時給・給料」
正社員の平均年収は、604万円と一般的なサラリーマンよりもやや高収入です。未経験の場合は250〜300万円程度からスタート、30〜40代で600万円以上と、キャリアを積むにつれて年収が増加していく傾向にあります。
市場調査・リサーチの将来性
市場調査・リサーチは、今後需要が増加すると言われています。
日本市場において、市場調査・リサーチの規模はまだまだ小さく、今後も成長していくと考えられています。また、ITの進化やSNSの普及に伴い、市場調査・リサーチの効果がわかりやすくなったことも、需要増加が期待される理由のひとつです。
商品やサービスを開発する上で、市場調査・リサーチは欠かせません。そのため、今後も市場規模は拡大していくでしょう。